「え?あ、おま、なんッ…なにして、」

床に這いつくばって呆然としながら私を見上げるマジェントの目は、不安と少しの恐れと疑問に満ちた色をしていた。なにが起こったのか理解できない、なぜ私が自分にこんなことをしたのかわからないし受け入れたくない、そんな目。
ぼたぼたと鼻血を垂れ流して床を汚すマジェントの頬と鼻頭には、泥汚れと擦傷で滲んだ血が付いている。咳をしているところは割と頻繁に見ていたけれど、マジェントが怪我を負ったところは初めて見たこともあって、マジェントの血の色はこんな色だったのか、なんて場違いなことをなんとなく考えた。

「…20th Century BOYって、自動的に発動してるのかと思ってた」
「何なんだよお前ッそれを確かめようとして俺を蹴り飛ばしたのかよ!?」
「わかんない」
「わかんないってお前…こっちがワケわかんねえっつーのチクショオ…!」
「マジェントがどんな顔するのかみたいなって考えてたら思わず?」

痛みがじわじわと染み渡ってきたのか目に涙を滲ませ始めたマジェントを見ていると、本当にこの男をあのヴァレンタイン大統領が刺客として雇ったのか?という気持ちになってきた。まあ大統領が使えない人間を雇うなんてことがあるはずもなく、一応この男も抜きん出た能力があることには間違いない。ウェカピポにクズ呼ばわりされていたけれど、防御力に関してだけは右に出るものは一人としていないのではないだろうか。そもそもまともな生き方はしてこなかったであろうマジェントと、これまたお世辞にもいい人生とは言えないだろうなという生活をしていた私が一緒に過ごしていてマジェントが怪我するところを全然見たことがないという事実がこの男の能力の強さの裏付けだ。
ーーそんな男が、私のつま先で鼻先を蹴り飛ばしただけでだらだらと血を流している。そう考えただけで、背筋を甘い痺れが駆け抜けていくようなかんじがした。


マジェントが流血してる短編が書きたい世界でした