喉が乾ききってしまって張り付くような感覚に混濁していた意識がゆるりと浮上した。枯れきった喉を潤そうと気だるい身体を引きずってどうにか布団から出る。汗ばんだ肌には、強く付けられたせいでもはや傷のようになってしまった情欲の跡がたくさん残っていて、そんな身体で畳を這う様はさぞかし慎みなんてない下品な姿をしているのだろうな、となんだか情けなくなった。

「芋虫みたいだな」
「…誰のせいですか」

私をここまで疲労させたくせに、この男ーー尾形百之助、は、いつも通りの食えない笑みを浮かべて私を見下している。相変わらず意地の悪い男だ。
このままずるずると這って移動するよりはこの人に持ってきてもらうほうが断然早いだろうと思い、がらがらの喉からどうにかこうにか、水、という単語を絞り出す。すると何故か尾形は私のほうへと歩み寄ってきて、私の目の前でしゃがみ込み一層笑みを深くした。

「喉が渇いたのか?」
「はあ、まあ…」
「わかった、口を開けろ」
「? 一体何を…ッん、」

指先で顎をすくい上げられたと思った時には一瞬で互いの唇が触れ合っていて、思わず鼻から声が漏れる。あまりの唐突な行動に引き結ぶ暇もなかった唇を、尾形は容易に舌でこじ開け私の口内を蹂躙し始めた。
草木も眠るような時間ということもあってか周囲から聞こえる物音は一切なく、尾形と私の舌が絡み合う水音ばかりが私の聴覚を支配する。どちらのものともわからない唾液が口内を満たし、接吻の息苦しさから反射的にそれを飲み込んでしまった。…まさかこの男、唾液で喉を潤せというのだろうか。
推測は当たっていたらしく、そんな私を見て尾形は至極楽しそうにくつくつと喉を鳴らし、もっと飲ませてやろうと言わんばかりにさらに深く舌を絡めてきた。

本当に、意地の悪い男だ。