「串団子を1本とほうじ茶を」
「はい、少々お待ち下さい」

ここ最近、なぜかよく軍人さんを見る。私には陸軍のことはよくわからないから、なぜ戦争が終わったのに故郷に帰らないのだろうかと彼らを不思議な気持ちでいつも眺めているのだけれど、皆一様に確固たる意思を持っているような目をしているので何かを成そうとしているのだろうな、ということだけは推し量ることができた。きっと私のようなちっぽけな人間には想像もできないような、お国のためになる壮大なことをしているのだろう。ならば私は一国民として、彼らに感謝して生きなければならないな、とふと思い立った。

「お待たせしました、湯のみが熱いので気を付けてお持ちください」
「…団子は1本しか頼んでなかったと思うが」
「おまけです。他のお客さんにはないしょですよ」

口の前に人差し指をたてて、しぃ、と静かに息を吐く。そして、後悔した。
近所の子供たちを相手しているときにこのゼスチュアをよくするのだけれど、これははたしてこの軍人さんにも通じるのだろうか。仮に通じていたとしても、こんな小さい子供を相手にしているような行動をして馬鹿にしていると思われてしまっていたらどうしよう。嫌な考えばかりが頭の中にたくさん出てきてしまうので、さっきのゼスチュアを誤魔化すように微笑んでそそくさと店の奥へと逃げ出した。
そして、後日。

「串団子とほうじ茶をふたつずつ」
「…は、はい、少々お待ち下さい」

先日の軍人さんが、二人に増えていた。
全く同じ顔、同じ服装の人が二人いて、昨日来て下すった軍人さんがどっちの方なのかわからない。びっくりしすぎて少しどもってしまったので、昨日と同じく、それを誤魔化すように微笑んでそそくさと奥へと引っ込む。
お茶を湯のみへと注ぎながら横目で軍人さんたちを覗き見ると、そっくりな顔を見合わせて何か内緒話をしていた。片方の軍人さんをもう片方の方がからかっているように見受けられる。…それにしても本当によく似ている。瓜二つだ。とても仲が良いみたいし、ご兄弟かしら。
そんなことを考えながらお茶と団子を乗せた盆を持ち上げて顔を上げると、いつのまにか軍人さんたちがこちらを見ていることに気が付いて思わず身体がびくりと震えてしまう。全く同じ顔が並んでこちらを見ていると、なかなか不気味なものだ。
…わ、私はお客さんに何て失礼なことを考えているんだ!お客さんの人相によって態度を変えるなんて客商売にあってはならないことだと、引きつりそうな頬をどうにか抑え、再度にこりと微笑む。すると軍人さんたちはまた顔を見合わせて何かをぼそぼそと話始めた。

「(まさか…私の笑顔があまりにも引きつっていて無礼な奴だと思われたのでは…!)」

いいかげん私は気まずくなると微笑んで誤魔化そうとする癖をどうにかすべきだったのだ、と数分前までの自分を後悔したがもう遅い。何か処罰されてしまうのだろうか、と震え上がってしまいそうなのを我慢して、軍人さんたちの元へと歩を進めた。



尾形上等兵か二階堂兄弟で迷ってたんだけど、尾形上等兵だとなんか変態じみた感じになりそうだったので二階堂兄弟。↓の牛山先輩ともどもいつか短編に昇華させたい。
短編だと多分長くなりそう