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からんころん。

「こんにちわー」
「あっいらっしゃい、塾帰り?」
「うん!今日は早く終わったんだ」
「いつも偉いね」

わしゃわしゃ頭をこねくり回すと少し恥ずかしそうに手を叩かれてしまった。つやつやとして光を照り返している黒色のランドセルに思わず笑みが零れる。確か10歳だったかな。私がそんな歳のころは毎日遊んでたのに、この子はもう毎日のように塾に行ってるなんて…これが時代というやつなんだろうか。いや、この子が特別優秀で真面目なのも理由の一つなんだろうな。

「はい、パンケーキとオレンジジュースね」
「ありがとう!いただきます!」

でも笑顔でパンケーキを頬張る姿は年相応でなんだかとても穏やかな気持ちになる。食べる姿を見つめていると頬にすこし傷跡のようなものがあってふと思い出した。

「そういえばこないだ頬に大っきい絆創膏貼ってたけど大丈夫?怪我?」
「うん、ちょっと油断しちゃったんだ」
「油断?」
「怪人と戦ってたんだけど後ろから別の怪人の反撃に合っちゃって」

あ、一応ヒーローごっことかはして遊ぶのか。「ナマエさんにも僕のヒーローネーム教えたでしょ?」なんて自慢げに言っていて、まあ覚えてるけど、と苦笑いしか返せなかった。前に彼自身の口から聞かされたししっかりと覚えてる。覚えているけれど、正直意味分かってんのかと言いたくなる名前だ。

「童帝…だよね…」
「ちゃんと覚えてくれたんだね!」
「その名前君が考えた訳じゃないよね?」
「え?あー、うん。お偉いさん達が考えたよ」

お偉いさんって上級生だろうか。覚えたての単語を使いたいお年頃なの?字面はいいよね、童帝。文字の意味もこどものみかどってなかなかかっこいいじゃないか、童帝。…どうてい。

「言葉の響きがなぁ…」
「どうしたの?」
「いや…なんでもないけど…」

子供にしてみればなにそれカッコイー!って付けたのかもしれないし、私はあえて何も言うまいー…そう決意し、親指をぐっと立てた。

「うんまあいいんじゃないかな!?かっこいいね童帝!」
「苦虫噛み潰したような顔してるけど大丈夫?」

2012.12.22(童帝)