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からんころーん。

「いらっしゃいませ、今日は何にしますか?」
「トラジャをアイスで。あとオムレツを」
「かしこまりました」

今日のお客さんもすごく個性的だなあ、そんなことを考えながらグラスにコーヒーを注ぐ。
この店を始めたばかりはそんなことは無かったんだけれど、なんだか最近は個性的なお客さんが増えている気がしてならない。鎧を纏っていたり着物で髷を結っていたりと時代錯誤な人からマントやボロボロのコートに包帯のような仮装じみた格好の人など様々だ。まあお客さんとして来てくれている以上格好について何か言うつもりは無いし、こちらも余計な詮索をしようとは思わない。お客さんだってそんなことをされたら不愉快だろう。それにうちに来るのは「落ち着いた雰囲気を楽しみたい」とか「静かな空間がいい」とか言ってくださる人がわりと多いから余計な会話で空間を壊すようなことはしたくないのだ。会話を楽しむのは店自体がそれ相応の雰囲気のとき、そういう空間を作っている日である。曲で雰囲気は変わるから日替わりで流している曲を変えるのだけど、そうするとお客さんも自然と今日はどういう空気の日なのかを悟ってくれるのだ。だからサイタマが来た時は店を大体閉める。サイタマの纏う空気はこの店には無い物だし、サイタマが居ると雰囲気を作る暇もなくなってしまうのだから。

「お待たせしました」
「いただきます」

会話を楽しむ日と曲を楽しむ日みたいなのを何と無く作る、そんな店な訳で、意外と常連さんであっても名前を知らない人も多い。今日のお客さんも名前も職業も知らない。店に来た時はいつも軽く何か食べて、コーヒーを読みながら本を読む。ちょくちょく怪我をしていることがあるから、会社員とかではないのだろうなあと思う。私に分かるのはこの人の好きなコーヒーくらいだ。でも、まあ、それくらいでいいのだ。

「今日も美味しいですね…コーヒーも凄く丁度いい味です」
「ありがとうございます」

でも流石にゴーグルヘルメットライダースーツという重装備で自転車でやって来るのはどうしても気になってしまうなあ。

2012.12.22(無免ライダー)