「ガンツ!どういうことなの!日本でもなけりゃ地球でもないンじゃないのあそこ!!不可視も一切働いてないしヒーローとかいう人間がいて!星人は怪人って呼ばれてて!!!私以外にガンツメンバーだーーーッれも居ない!ふざけんなッ!」

かなりキレているらしいあいつがスーツで強化された足でガンツを全力で蹴りつけるものの、ガンツは微動だにしない。金属かなんなのかよくわからない物質で出来た異様に重いそいつが動くのは、スーツと武器が収納された左右の引き出しが開く時だけだ。
この部屋のど真ん中に鎮座する黒い球体、ガンツ。謎だらけのそいつにとっては蹴りなんて痛くも痒くもなんともないだろうが、とにかく腹が立ってしょうがなくてやっているんだろう。そーいうトコがあいつらしい。

「おいブス」
「…何?西くん」
「お前最近毎回ミッションの時いねーけどリモコンのステルス機能使ってる訳じゃないンだろ?どこ行ッてンだよ」
「そうそれ!私にもわかんないからさっきからガンツをガツンしてたんだけどさー!場所も意味不明なうえに完ッ全に一般人に私も星人も丸見えなんだって!!」
「へえ?なかなか面白そーな事になッてるみてぇだな」
「全然楽しくない…星人もかなり弱いし点も低いし…日本語なのに日本じゃないし意味わかンない…!今日会ったおねーさんなんかその場所のこと何て言ッたと思う!?」
「……ジンバブエ?」
「M市!!!!!!なんで伏字したみたいになってんの!?バラエティ番組じゃねーんだぞ何だよMッて!!!どこだよ地球ですらねーーよ!!」
「そこにいた奴らの骨、Xガンで見たか?人じゃなかったら速攻ギョーンしちゃえばイイじゃん」
「……間違いなく人間の骨格だッた」

Xガンで敵の骨格を透かして見ればそいつが人か人じゃないのかくらい簡単に判断できる。こいつが俺に嘘を吐くとも思えねえし、そこにいたのが人間だったってのは本当のことなんだろう。M市とかいうのも、怪人とかヒーローとか馬鹿みてぇなのも。
戦闘能力がズバ抜けてて何回か100点を取ってるコイツが簡単にはやられたりしないだろうし、癪だがこの東京のガンツメンバーにはそれなりに強い奴が多いから全滅なんてのは早々起こり得ない。だから別にコイツが居なかろうがミッション自体に支障はない。でもガンツが意図してコイツだけを変な場所に転送してるんだとするとちょっとムカつく。

「つーか今回Zガン使ッたんだな」
「うん、持ってって正解だった。結構大型だったから四肢叩き潰したら楽勝」
「簡単に言ッてるけど星人も生物だぜ?ヘーキでバンバンぶッ殺すとかお前も大概頭イッてンじゃねーの」
「どの口がそんなこと言ってんのー?人とか星人が死ぬとこ見て興奮する変態ちゃん」

イヤン、なんて腰をくねくねさせている姿が非常に馬鹿らしくてムカついたから、Xガンを頭部に向けてロックオンしてやった。1つトリガーが引かれているのを見て、少し慌てたようにこちらへ駆け寄ってくる。スーツ着てるのに心配してんじゃねーよ。第一ミッション終盤じゃねーお前を撃つはずねーだろ。
瀕死の重傷を負っていても、生きてさえいれば傷は全て無かったものとなる。だがそれはガンツ部屋に呼び寄せられる時…ミッションが終わってこの部屋に戻る時…そういったこの部屋へガンツによって転送される時にだけだ。ミッションが完全に終了した今じゃ傷は戻らない。ココでこいつを殺しちまったら楽しくねぇ。
ロックオンを外してやれば体当たりするような勢いであいつが抱きついてきて、衝撃で床に倒れこむ。スーツ着てるから全く痛くねーけど、無駄にスーツにダメージ加えんじゃねえ、とは思う。でも押し倒されているようなこの状態にはちょっとムラッときた。

「あ!そうだ西くんッ」
「ンだよ」
「私たちってガンツのミッションの詳細を知られたり…ガンツウェポンを大勢の人が見てるトコで使うと脳みそに着けられた爆弾が起爆するんだよね?」
「だと思うぜ?前にXガンを大勢の前で使おうとした馬鹿が呆気なく死んだしよ」
「最近なんでか不可視が働いてないせいもあってミッションのたびに人におもいッきり武器見られてんだけどなんで私死ンでないのかな」
「くくッ、不可視が機能してなくて俺らがミッションに関係ねー人間に丸見えの状態なんだろ?ガンツも流石に今までみてぇに武器使ってるトコ大勢に見られたら速攻頭爆破してたンじゃーいくら死人を次々ガンツにほりこんで補充してっても星人倒しきれねぇことくらい分かってんだろうよ」
「そっか!武器使ったせいで優秀な人が死ンだらどうしようもないしね」
「これで街中でXガン乱射しても頭吹っ飛ばねーぜ」
「そんな通り魔みたいなことやめよ!?」

脳味噌に爆弾埋め込まれてガンツの情報漏らせば速攻爆発なんてめんどくせぇとはずっと思っていたが、武器をおおっぴらに使ってよくなったってのはイイな。なにかガンツの情報を漏らすようなことやって、ガンツがこれは駄目だと判断したら爆破されることには変わりはないんだろうが、武器が使えるならいざという時周りの人間を皆殺しにできる。

「…西くん何か悪いこと企ンでない?駄目だぞ中学生がそんな顔したらー!」
「別に企ンでねーし」
「ウソつけ!」
「うるせぇ、ギョーンするぞ」
「私ギョーンしたらご飯作ッてあげない」
「………チッ!見逃してやるから今日はオムライス作れ」
「はいはい了解」

あいつは立ち上がるとガンツの方へ近付いて行き、何かを中の男に耳打ちして帰る支度を始めた。何言ったんだ。気になる。とにかく考えていても仕方がねえし、鞄にXガンをしまって俺も立ち上がった。玄関から一歩外へ踏み出してしまえば、またミッションが始まるまで侵入は出来なくなる。ガンツが置かれたこの部屋は外から見ればただの普通のマンションにしか見えないが、一体どういう構造になってるのだろうか。死人を集めて戦わせて、何がしたいのか。…いや、そんなことは重要じゃない。このくだらない世界で、唯一の面白い事だってことはハッキリしてる。
とりあえず今一番大事なのは晩飯をさっさと食って風呂に入って寝ることだけだ。

「西くん、私はこれからもミッションのたびに一人だけ変な場所に転送されるかもしンないけど…私がいないとこで死ンだりしないでね」
「お前こそ俺が見てねートコで死んだりしたら100回殺す」
「死んでるのに殺すの?」
「100点取って生き返らせて殺す」
「へー、私死んだら生き返らせてくれるンだ」
「……うッせぇ」
「ふふ」

フラフラ前を歩くその危なっかしい姿に少し…ほんの少しだけ心配になって、思わず手を取った。あいつはしばらく呆気にとられた顔をしていたが、何も言わずににっこりと笑って俺の手のひらを握り返す。その手のひらの暖かさがかつて感じていた…今ではどれだけ望んでも感じることのできない、母のそれに似ていたような気がして、何とも言えない気持ちになる。

「絶対に俺の居ねえとこで死ぬンじゃねぇぞ」
「勿論だよ、何回も言わないでも分かってるから安心して」
「絶対だからな」
「うん」

絶対だよ。そう言って笑うあいつの顔が、全く似ていないはずの母とまた重なったような気がした。