今回のミッションはイレギュラーにもほどがあった。
普段は星人たちにしか私たちの姿は視認できず、また星人も私たちにしか視認できないはずなのに、周囲のミッションに関係無い人間にも両方の姿が丸見えで余計な混乱が起こってしまった。ミッションが始まってからしばらく待ってみたけど、いつまでたっても私以外誰も転送されなかったのにはびっくりした。普段は東京でミッションが行われるのに今日はなんだか東京とは違う場所だったのも変だったし。最近なんか変だなーとは薄々思っていたけれど、ガンツの調子が本当に悪くなってきているらしい。これもカタストロフィ、というやつの影響だろうか。
不可視の効果が働いていなかったあの変な金髪の人がもし仮に星人だったとしたらまあ納得がいかないわけではないけれど、あの金髪の人は私のことを…いや、スーツや武器かな?とりあえず、ガンツに関わるもののことを全く知らないみたいだったから星人ではなさそうだ。腕やらなんやらからして確実に人間ではないって感じに見えたけど、もしかしたら形態の違ったガンツスーツを纏った人ってこともあり得るし、再度会ってみないことには分からないか。

「おいブス!今日のミッションお前どこ行ってやがッた!」
「あぁん西くんどうしたのそんなに不機嫌で」
「不機嫌じゃねーよ!だからどこ行ッてやがったッて聞いてンだ!」
「んー…私だけガンツ部屋から転送される時、皆と別の場所に転送されたッぽい?なんか見たこともない場所だったから、星人が二手に分かれてて片方に私だけが転送されて…ッてことかもね」
「くそ…ガンツの野郎説明も無しに…ッ」
「もしかして西くん私がいなくてさみしかッた?」
「ンなわけねーだろブス」
「(…図星だな)」

むっすりした顔で部屋の隅っこで体育座りする西くんの顔が年相応で、大人びていてもやっぱり中学生なんだなあ、と思いニヤリとしてしまう。いけない、また西くんに怒られちゃうや、と思い誤魔化すように部屋をぐるりと見渡すと、見知らぬ女の子が居ることに気が付いた。珍しい、ド素人が生き残ったんだ。女の子は何が起こったのかも分からず震えているように見受けられる。
ガンツの採点が終わってほとんど皆帰っちゃったから、部屋の中には西くんと私と見知らぬ女の子しか居なくなってしまっている。そりゃ不安だろう、突然こんな部屋に送り込まれて殺し合いをさせられて、なんとかやり遂げたと思えばこんなニヤニヤしてる女と無愛想な中学生しかいない部屋に取り残されたんだから。他の愛想のいいメンバーも気を使ってあげればいいのに。
とりあえず家に帰るよう促しとくか。不機嫌そうな西くんに耳元で「後でご飯作りに行ってあげるから先帰っといて」と耳打ちし、なるべく警戒心を抱かせないよう微笑みながら女の子のほうへ近付いて行く。

「こんばんは〜」
「! こ、こんばん、は…?」
「突然だけど…君、自分が死んだッて自覚してる?」

びくん、と女の子の肩が跳ねる。そりゃそうか、強烈な痛みと共に突然の命の終わりを迎える…そんな瞬間を確かに自分は体験したはずなのに、なぜか今、傷一つ無い状態で間違いなく生きているのだ。自分が死んだこと、今生きていること、その二つの相反する事実に混乱するのが普通だ。突然この状況にほりこまれると、これは催眠術だのテレビの撮影だのと現実逃避をして自分を無理矢理納得させる人も多い。
この子はそうすることもできず、ただただ混乱しているように見受けられた。…この子にはあまり期待できそうにないな。そう思ったけれど表には出さず、ににこにこと笑いながら話し続ける。

「実は私も…1、2年前くらいかな?それくらい前に一回死んだンだ。交通事故」
「あなたも…死んだのに、生きてるんですか…?」
「うん。完全に、完璧に、間違いなく死んだよ。でもそこのデッカい黒い玉…“ガンツ”に呼ばれて生き返らせられた」
「ガンツ…」
「この玉が出す指令…ミッションって呼ばれる指令に従って地球に潜んでいる宇宙人、"星人"を倒していけば、それに応じて点が加算されてく」
「点を集めてどうするんです?」
「100点溜まるとご褒美が貰えるンだよ。ガンツに関わる全てのことを忘れて元の生活に戻ることもできる」
「ほ、ほんとですか!?」
「うん。今の私たちは…死ぬ前の私たちの情報をガンツが出力してるだけの、ただのコピー。もともとのオリジナルの身体はもうない。だからどこにいようとなにしてようと、ガンツには呼び寄せられて戦わなくちゃならない。それから抜けることができるご褒美」

女の子の沈んでいた表情が一気に明るくなったのが分かる。そりゃあ、元の生活に戻れるなんてすごく嬉しいことだろう。その後も一通りここについて説明していくと、さっきまでの不安そうな面持ちが嘘みたいに笑顔になった女の子が、私、頑張ります!と元気よく言って颯爽と帰って行った。そんな女の子の背中を、ぼーっと見送る。多分あの子、次で死ぬな。
星人の数、強さ、それらは毎回全く違う。前は星人を殲滅できたからといって、次も、というわけではない。どんなに弱かろうとどの星人も人を簡単に殺せる程度の力は持っているのだ。そんなやつに立ち向かって行って…元の生活に戻れると言っただけであそこまで希望を持つような楽観的な子が生き残れるとは思わない。私は誰にも等しく希望は与える。でも、そこからの道を選択し行動するのは自分だ。覚悟を持たない人間には自分の身すら守れない。それに、あの子が死のうが生きようが私には興味のないことだ。あの子を守る気は私には無い。ごめんね、てへぺろ。

「ガンツ、次は100点武器もちゃんと用意しといて。私だけ別の場所に転送しても構わない。今回は無くてもなんとかなったけど…でも次もそう上手くいく確証は無いから」

100点を取った時のご褒美の一つ、強力な武器の支給。以前からそれを受けている私だが、今回なぜかその武器が手元に何故か無かった。細かいことは気にしない私だけど、これは気にしない訳にはいかない。こっちも命がかかってるんだ。ガンツの調子が悪いとガンツに従うしかない私たちもとばっちりを受けてしまうのが非常に面倒臭い。武器がなかったミスはガンツが意図してやった訳ではないんだろうとは思うけど、全くもって面倒臭い。私の言葉からワンテンポ遅れて、滑らかな真っ黒い球体の表面にヘタクソな文字が浮かんだ。

『わかりました ごめんね ぶきをよういするのをわすれていました つぎも がんばってくだちい』
「はぁ!?ガンツのミスだッたの!?次忘れたら耳に指つッこんでグリグリすっから」
『やめてくだちい』
「じゃあ忘れないように。そろそろ帰るね」

ガンツ部屋から出てスーパーへ向かう。今日のミッションで殺したヤツはさほど強くはなかったけど、結構大型の星人だったから複数で来られたらめんどくさかったろうな…。次は一応ガンツバイクとガンツソードも持っていっておこうかな。銃はどれを使うか…そんなことを考えながら歩く。いい戦法とかあるかな?他のメンバーは命を大事に皆で協力してどうにかする!って感じだし参考にはならなさそうだ。西くんは姿を隠して奇襲しかできないし…うーん、戦法…戦法…。
西くんに作りに行くと言ったご飯のことも一緒に考えていたせいで、結局戦法なんかはろくに思い浮かばず、ご飯も若干焦がしてしまって西くんに怒られてしまった。