「そこの黒い奴…一体なんだお前は」
「あー…?なんだはこっちだよめんどくさ……最近ガンツの調子がおかしいってのは聞いてた、け、どッ」

鈍く月明かりを反射する重厚な武器に似つかわしくない、ギョーン、という間抜けな音があたりに木霊する。暫くの間を置き、強烈な破裂音が響き渡った。謎の女が攻撃したと思われる怪人の頭部が内部から爆発し、四方八方へと肉塊となり散らばって行く。赤黒い液体が迸り、むせ返るほどの鉄臭さが辺りを支配する中、頬を怪人の血液で濡らした女がにっこりと微笑んだ。

「アンタも星人?」
「…星人?悪いが俺はお前の足元の怪人を倒しに来ただけのヒーローだ」
「へえ、ヒーロー。たけしくんが喜びそー」

ぴっちりとして身体のラインが丸わかりの、所々に丸い金属がついた黒いレザースーツを見に纏った女。怪人が現れたと報告を受け現場に向かうと怪人と対峙していたのがこの女だ。
ほんの一瞬戦闘を見ただけだが、その戦闘力は間違いなくS級レベルだということが理解できるほどに強かったそいつ……顔に全く見覚えがないことからして、ヒーローではないのだろう。ならば一体何者だというのだろうか。先生のように趣味でヒーローをやっている人間だったとしても、内部から破裂させるなんていう高度な武器を持っているからには、確実にこいつ自身、もしくはこいつの協力者が研究者のはずである。だがしかし、あんな武器の存在は聞いたことがないし、あんなに小型なのに巨大な敵を内部から破裂させることができるような技術を持った研究者の話も聞いたことがない。クセーノ博士ならばそういった類の兵器の情報はすぐに入手して俺の身体に生かすだろうしーーー何より俺も、開発された兵器の情報くらい集めているのだ。そんな俺が一切見たこともない武器。こいつは公にはできないようなモノばかり作っている人間なのかもしれない。それの試し撃ちのために怪人を狩っているか、もしくは、そういった奴から兵器を盗んだか。どちらにしろ、悪と言ってもよい存在の可能性が高い。まあそれは憶測にすぎないのだが。
俺のように悪を憎む者だと仮定し、ヒーローとしての協力を仰ぐべきか…それとも、

「害を為すと判断しここで…排除、しておくべきか」
「んー?何々私を殺す気?やっぱ星人なのか…ミッションには関係ない感じ?私たちが邪魔な星人ちゃんかな?」
「だからその星人とかいう奴とは違うと言っているだろう」

からからと笑っている女に、少しだけぞくりとした。敵と認識すれば迷いなく俺を殺しにかかるのだろう。女が持っているライフル銃…二つあるトリガーのうち、片方が既に引かれている。危険だ。危険すぎる。仕組みが一切分からない武器に対応するなんてこと、俺に出来るのか。常に戦闘を開始できるよう焼却砲の発射準備を始めていたが、それは無駄となった。

「ありゃ」
「…?」
「戦闘準備バチバチにキメてくれてたみたいだけどさー、お預けだね!」
「お預け…?撤退命令でも出たか?お前は任務か何かでここへ来ているのか?」
「説明する義務はありません!」
「こっちはまだまだ聞きたいことがあるんだがな。その武器のこととかな」
「あー…それはしたくても無理…ってやっと転送始まったかぁ」
「っ!?な、何だそれはっ!」
「さあねー?全くわッかんないけどー、もっと…君が興味津々なこの武器について知りたかったら、君もいっぺん死ンでみたらいいかもよ」

正に目を疑うような光景。平然と喋り続ける女の頭頂部が、まるで鋭利な刃物で切断されたようにすっぱりと無くなっていたのだ。ジリジリと水色の光を発しながら、断面はどんどん下へ降りて行く。人差し指をこちらに向け、小さな声で「ばーん」と呟いて、女は跡形も無く消失した。

「…う、撃たれ…た…のか?まさか、破裂したりしないだろうな…」

俺の問いに答える者は居ない。辺り一面真っ赤に染まったその場に残ったのは、怪人だったモノの爆散した破片だけ。鼻を突く生臭い悪臭が、いやに不愉快だった。