私にとってそれは夜空を切り裂いて駆け抜ける一筋の流星のごとき強烈かつ鮮烈な衝撃でありました。
とある日のことです。突然背中をどんと押されて路地裏に押し込まれ、目の前にはとても怖い男の方が立ちはだかり、背後には壁、横にはその方の腕という逃げようのない状態になってしまったのです。おそらく、お金を取られてしまうのだろうと思いました。私の将棋の腕前というのは何故こんな真剣師の巣窟に連れて来られたのだというほどに低いものであって、そこに目をつけて一気に巻き上げてしまおうと思ったのだろう。そう考えました。私は非常に臆病な性格であって、きっと断ることなどできません。なにより、足がすくんでしまって、ただただ震えていることしかできずにいました。
ぎゅっと目をつぶった、そんな時です。
突如鈍い音がしたかと思えば、何かがぶつかったり吹っ飛ばされたような大きな音が響き渡ったのです。私はおそるおそる目を開きました。何が起こったのかは全く分かりませんでしたが、路地裏の細い道に差し込む光を背に受け、力強く立っているこの人こそ私を助けてくれた方なのだと理解した瞬間、私の頬には一筋の涙が零れていました。

「大丈夫か?」

地下の警察みたいなものである(凛、という名前は知っていたので、凛様と呼んだところ「様はやめろ」と言われたのでこう呼ばせて頂いてるのですが)凛ちゃんにとってあまりにも一方的すぎる搾取は止めて当然の事だったのかもしれません。それでも、恐怖から救って下さった凛ちゃんは私の崇拝する存在となりました。私をじっと見つめるその瞳に、私は心を撃ち抜かれたのです。

「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん」
「うるさい」
「ごめんなさい、静かにしてます」
「静かにするしないの前について来るなよ」
「うう」

あの出来事から数ヶ月、私は今日も凛ちゃんを追いかけます。軽くあしらわれようともめげません。これでも以前よりは相手にして下さるようになったのですから。

「凛ちゃんの迷惑かもしれませんが、凛ちゃんのそばにいたいのです。」
「……馬鹿だろ」
「何故ですか?」
「私についてきたって何もないぞ」
「凛ちゃんでなければいけないのです」

私がこう言った時、凛ちゃんは一瞬だけ眼を見開くと、あの時と同じ…名前のとおり、それはもう凛とした視線を私に合わせて下さいました。そして、頭を撫でて下さいました。
その手つきがとっても優しくて、自分のみにくいきたない部分がどろっと溢れ出した感じが身体を支配します。
これは私の勝手な一方的な好意です。凛ちゃんは私に「得なんてない」と言いますが、むしろ凛ちゃんこそ私といると「損しかない」のです。それでもうっとおしがりつつも私がついていく事を許してくれる凛ちゃんに甘えきる私はとんでもない屑です、ごめんなさい。

「凛ちゃんは、私の、憧れなんです」

そばにいられることがたまらなく嬉しいー…その言葉に、凛ちゃんは少し微笑んでくれた気がします。やっぱり、凛ちゃんは優しいです。
あの日と同じ涙が、頬を伝いました。