※原作軸でない,かつパラレルっぽい。病んでいる



 硝煙と血の匂いが立ち込める中、震えるなまえの身体を抱き締めた。そうしてやるとなまえはいつものようにびくりと大袈裟に肩を跳ねさせ、はらはらと涙を零し始める。おお、怖かったろう、どれほど恐ろしかったろう。俺が来たからにはもう大丈夫だ、そう言い聞かせるように呟きながら、なまえの細く嫋やかな髪に手を這わせる。ゆるりと頭を撫でると、またなまえは身体を震わせた。
 まるで子どものようだな、お前は。どんな些細なことにも初心に敏感に反応するその様がどうしようもなく愛しいと思った。頭が今ひとつ足りていないところも可愛らしい。俺から逃げられると未だに思っている所もそうだが、なまえが不埒な男に攫われてしまったのだと俺が本当に思っていると思い込んでいる所も可愛い。
 足元にしゃがみ込み、走り回ったのか足の裏まで擦れて血が滲んだ足を見る。脚の錠前を無理に引き千切ったのか、足首にも擦傷が出来てしまっていた。今回の奴は思慮が足りていないな、なまえに怪我をさせるとは。そんな馬鹿な男どもだが、一時でもなまえのために働きなまえの視線を奪えたのだ。あとは鴉に啄ばまれ朽ち果てるしかないだろうが、それも本望だろう。
 涙の膜が張った瞳でこちらをじっと見るなまえに背筋がぞくりと震える。これだ。この眼は人を狂わせる。この眼を向けられるのは俺だけであるべきなのだ。
 恐怖と不安を滲ませた顔で俺の感情を伺い知ろうとするなまえに笑顔を向ける。俺は何も言わず、ただ笑いかけ言葉を促す。そんな俺を見て、なまえは唇を震わせながら声を発した。

「ひゃ、百之助さん、たす、たすけて下さって……ありがとう、ございました………」
「当然だろう?お前の為なら俺は鬼になったっていいんだ…愛しているぞ、なまえ」
「えと…あの、そのう……」
「ん?」

 あの言葉を俺にくれ。その為にわざとあの男どもがなまえに近付けるようにし、隙を作り、屋敷から逃げられるようにしたのだ。
 蜜のような、なまえのあの甘言の為だけに。

「私も、あ…あいしてます、お慕いしています、百之助さん…」

 ああ、本当に愛い奴だ、お前は。