ぴー、という高い笛のような音にとろとろとまどろんでいた意識がはっと覚醒する。その音がなんなのか一瞬わからなかったがすぐにやかんの中が沸騰した音だと気付いて炬燵を飛び出す。炬燵から出た瞬間に肌を突き刺す寒気に身体がぶるりと震え上がる。ぼんやりとしてはっきりしない思考をそのままに、とりあえず石油ストーブの上に置いたやかんの蓋を開け、音を止めた。

「…んぁ?やかんなんかかけてたか?」
「知らないよ…私はやった覚えないんだけど…」
「つーか今何時だよ…寝ちまってた」
「んー…もうすぐ12時…」
「もうそんな時間かよ蕎麦食おうぜ蕎麦」

どうやらサイタマも眠ってしまっていたようで、二人揃って年明けギリギリに目を覚ます体たらくである。くあ、とあくびをしたらつられてサイタマもあくびをする。蕎麦の用意昼間に終わらせておいて良かった。テレビをつけると某歌番組が終わりに近付いていて、しみじみ年が明けるんだなーと考えて少しさみしくなった。

「おーいなまえー!ネギ切ってくれー!」
「はいはーい」
「去年も二人で台所に並んで蕎麦作ったっけなー」
「あれからもう一年かー」
「今年はなかなか早く過ぎたな」
「うん」

ジェノスが押しかけて来たりヒーローんなって色んなやつが家来たかと思ったら好き勝手したりよー、なんて溜息を吐きながら言ってるサイタマだけれどその横顔は何処と無く嬉しそうに見えて、なんだか私まで嬉しくなってしまう。ただ怪人を倒し続けるだけの毎日でいつも虚しさばかり表情に浮かべていたサイタマだったのに、最近は結構楽しんでいるみたいで何よりだ。

「てんぷらのせるよー」
「おー、てかとっとと食わないと年開けちまうな」
「あっほんとだ、いただきまーす」

口に麺を含もうとした瞬間に外から巨大な破壊音が響き渡り、家がガタガタと振動する。サイタマなんか思い切り手を滑らせたみたいで膝の上に蕎麦を盛大にぶちまけてしまっていた。そこからは湯気がとめどなく上がっていて、凄く熱いことが見て取れた。

「ど熱っちいいいいいいいい!」
「あーもーつぎなおしとくね」
「おいちょっとくらい心配しろよ!」
「だってサイタマだし…」
「くっそー…どうせまたジェノスと関パニだろ…ぶっ潰してくる!」
「やりすぎないようにねー!」

コラァァ!というサイタマの叫び声が聞こえてくると同時に、テレビではニュースキャスターが笑顔であけましておめでとうございます!と挨拶をしはじめていた。結局蕎麦は年明けに間に合わなかったなあ、蕎麦の味は去年と特に変化ないなあ、なんてぼけっと考えながら蕎麦をすする。窓の外を見るとジェノスくんとソニックだけではなくフブキちゃんやキングさんも居て、今年は去年のサイタマと二人の正月よりとても賑やかになりそうだと思った。わあわあ騒いでいる皆を見ているとなんだかたまらなくなって、思わず窓を開けてベランダへ飛び出していた。

「みなさーん!あけましておめでとうございまーす!」