「こーんにーちはーあ」

押しても押しても鳴らない呼び鈴に名人も真っ青な華麗な16連打を繰り出す。相変わらず乾いたスカスカいう音しか出なくて、斬野は人形を造る前に直す物があるだろうがという気持ちを込めて扉を蹴飛ばしてやった。それでも一向に出てくる気が無いようだったからしつこく蹴り続けていると焦った様子で斬野がドアを開けた。

「やっと出てきたか」
「ガンガン煩い!ドア壊す気か!?」
「じゃあとっとと呼び鈴直せよ!私は直すまでお前ん家のドアを蹴り続ける!」
「やめろ!そして帰れ!」
「なんで」
「…今日は客が来るんだ」
「どうせ澄野さんでしょお邪魔しまーす」
「待て!」

遠慮なしにずかずか上がりこんでいくとクルちゃんが笑顔で迎えてくれた。かわいい。

「なまえさんいらっしゃい!」
「はいクルちゃんお土産」
「わーい!」
「餌付けされるなーーっ!」

後ろで相変わらず斬野がうるさく叫んでいるけれど、私はクルちゃんに呼ばれて来たのだ。勝手に用事も無くただ来たわけではないのからあーだこーだ言われる筋合いはない。斬野をそんな気持ちを込めた目で睨むと凄い顔をされた。なんというか凄い顔という表現しか浮かばない、なんとも言えない顔である。

「酷い顔だな」
「斬野だって凄い表情だけど?綺麗な顔をしてるんだからやめたら」
「お前もな」
「お、おう」
「ていうかとっとと帰れ」
「クルはなまえさんと将棋打つのなまえさん帰っちゃ駄目なのー!」
「だそうですよお兄ちゃん」
「……クル…約束した時はあらかじめ言っておけ…」
「あっクルちゃんこれアイスだから溶けちゃうわ冷蔵庫ある?」
「あっちに有るー!」
「話を聞け」

台所のほうへ走って行くクルちゃんを追いかけようとすると斬野が呆れたような顔でこっちを見ていて、前に一度、誰かに「お前キリノのこと嫌いなのか」と言われたことを思い出した。それを言ったのは誰だったか忘れてしまったけれど、そいつは私たちの事を全く分かってないなーとつくづく思う。…辛辣とも取れる言動は、そういうことを言っても斬野は受け入れてくれるのを分かっているからだ。ばーかばーかと罵って、向こうも脳みそ入ってるのかと馬鹿にして、結局最後は笑い合う。私たちはそういう関係なのだ。そんなことを考えながら斬野の顔を見てたらなんだか無性に照れ臭くなって、誤魔化すようにばーかと呟いた。もちろん、返事をするかのように、斬野も。

「…斬野、あんたのぶんもちゃんとあるから心配しなくていいよ」
「心配なんかしてない。なまえはいつもちゃんと僕の分も持ってくるからな」
「何それ私が斬野のこと大好きみたいじゃんやめてよ」
「こっちもなまえなんか願い下げだ」
「うわくっそむかつく」