※きもちわるいストーカーソニックしかいません注意!


好きだ。

端正な顔立ち。すっとした唇から吐き出されたその言葉は私の心臓をどくんと跳ねさせる。
突然の言葉に私は咄嗟にこの場から走り去ろうとしたが、大きな手のひらに指を絡め取られてぎゅっと握られ、逃げられなくなってしまった。じっと目を見つめられ、射抜くような強い視線に目を逸らすことが出来なくなってしまう……
こんなベタな少女漫画のような展開は一体なんだというのだろう。
世の中の女性誰もが憧れるであろうシチュエーション、でも私は悪寒しか感じない。

「何で逃げるんだ?」
「え、や、あの…」
「…ああそうか。突然すぎたな。もっとムードを大事にしたほうがよかったか」
「いやそういうことじゃなくて…」
「じゃあ何だ?何かして欲しいのか?キスか、ハグか…あ、場所を変えたほうがいいか?」

全く状況が理解できないけれど、この人には話が通じそうにないということだけは理解できた。
先ほどから心臓がばくばく早鐘を打っているがこれはときめきなんてものじゃない。恐怖だ。
私の目の前にいるのはたしか、ソニックさん。最近私の住んでいる部屋の隣に越してきたひとだ。…そう。最近、越してきた。
彼と私は偶然顔を合わせる程度の接点しかないというのに、何故彼はこうも親しげに話しかけてくるんだろう?正直言って私はソニックさんのことを名前くらいしか知らないしそれはソニックさんも同じはず。今私は聞き間違いでなければソニックさんに告白されたわけだけれど、その告白される理由が全くわからないのだ。
彼と仲がいいわけではないし、私は一目惚れされるような美少女ではない。
まず場所もおかしい。いつの間にか狭い人なんて全く寄り付かなそうな路地裏に引きずりこまれていた。

「えと、ソニックさん…ですよね…」
「なんだ今更名前なんて…そんなの分かり切ってることだろう」
「えええ…?」
「俺とお前の仲だぞ」
「ううん…??」

やっぱり何かがおかしい。話が噛み合う噛み合わない以前の問題だとしか思えない。彼は私を別の誰かと勘違いしているんじゃないだろうか。

「ソニックさんと私の仲ってなんですか、全く状況が理解できないんですがソニックさんは私を他の方と間違えているんじゃないんでしょうか…!」
「…は?何を言ってるんだ?」
「いや…ですから、私とソニックさんは唯のお隣さんで、」

握られている手にぎゅううっと力が籠められて思わず顔をしかめる。いたい、という言葉が反射的に口から漏れるとソニックさんはお互いの鼻の頭がくっつく程に顔を近づけてきた。

「馬鹿なことを言うな、俺とお前は好き合ってるっていうのに」
「…うえっ!?」
「もう一年は見てきたんだ、なまえのことなら何だって知ってる。なまえだって俺に何度も何度も笑いかけてくれたろ?」

なあ、なまえ。
ソニックさんが言葉を発するたびにかかる息に背中がぞわぞわ粟立って気持ち悪い。目は獣のようにぎらぎらしていて、恐怖で涙が溢れ出しそうになってくる。
一年見てたって、私のことを何でも知ってるって、なに?どういうことなの?笑いかけるなんてしたことない。まず私が彼の存在を認識したのは精々1ヶ月前のことなのに。

「俺となまえ、お互いにちゃんと好きだって言ったことなかっただろ?だからちゃんと恋人らしいことをしようと思って」
「こ、こいびとって」
「俺とお前は、恋人だろう?」

違う!そう叫ぼうとしたけれど私が声を発するより早く噛み付くようにキスをされる。私の手を握り締めていたはずのソニックさんの手はいつの間にか私の背中と腰に回っていて、いつの間にかぎゅうっと抱きしめられていた。
食い荒らされるように唇を貪られ、もう何が何だか分からない。軽い酸欠状態で頭もくらくらして、抵抗も出来なくなった。
何度も啄ばむような口づけを降らしながらにっこり笑うソニックさんにはやっぱり恐怖しか覚えなくて、何でこんな怖い人に目をつけられてしまったんだろうと過去を恨むことしかできない自分が恨めしい。お隣さんがストーカーなんぞ気付く訳がないがないじゃないか。ストーカーなのに全然忍んでない、行動力がありすぎる。

「はは、これからは一杯恋人らしいことをしよう」

ああ、ヒーローが駆け付けてこの人をぶっ飛ばしてくれないかな。
…ていうか誰でもいいから助けてください。