この白黒の世界に、
「和仁」
「……真紘」
「昨日はごめんなさいね。まあ、今日から新しい学校生活の始まりだし?私たちは心を入れ替えて楽しみましょ」
「…ええ…」
4月。私は晴れて高校生の仲間入りを果たした。最も、あんなこと(大人の遊び)を既に体得してしまっていた私には、端から見たら確実に高校生だと思われていただろうが。
ちなみに真紘は二つ年上だ。私が入学するこの高校の現在三年生に当たる。下の名前で呼んでいるのはまあ…慣れというやつだ。
そんなこんなで退屈な入学式が終わり、自分のクラスへと向かう。確かA組だった筈だ。
クラスに向かう途中、懐かしい顔に声を掛けられた。
「か、ずー!!」
「那優(なゆた)」
「おっはよー。カズは何組?俺B組なんだよねェ」
「Aですよ」
「なんだァ!違うじゃんっショックー」
160cm弱ほどしかない彼は、一見女子生徒と見間違うほど華奢だ。結構可愛い顔をしているので、中学時代のように変な虫が付かないか心配な所だ。
他愛ない世間話をしていたら、もう自分の教室に着いてしまった。那優と別れ教室に入ると、もうほとんどの生徒が席についている。気まずい空気の中、私は冷静になろうと自分の席を探した。
「おい、あれ」
「ああ、新入生代表で入学式に演説してたヤツだ」
「演説するやつって、入試の時の成績トップ者らしいぜ」
「マジかよ!」
噂話に近いような話が聞こえ、溜息を吐く。チラッと視線を飛ばせば、クラスの数少ない女子からも歓声のような黄色い声が聞こえてきた。
それを半ば無視して席についたものの、周りから入ってくる無駄な騒音に私は頭を抱えた。
「あの」
「はい?」
「これ、さっきそこを通った時に落としたと思ったんですけど……」
長めの黒髪で大きな瞳の愛らしい彼女は、その真っ白い手に私が携帯に付けていた(真紘から貰った)青いガラスのストラップを差し出してきた。
多分ドアの所にでも引っ掻けたのだろう。そう思い、彼女にお礼を言ってストラップを受け取る。
彼女は少し恥ずかしそうに微笑んで、教室の一番端の、廊下側の席に座った。
「……名前、聞きそびれた」
ボソッと呟いたが、まあ同じクラスの子だし何とかなるだろう。そう思って私は手の中にあるストラップを眺めていた。
「お前ら全員いるかーいねぇやつはシカトー。じゃあ出席取るぞー」
なんて適当な担任だろう。教室のドアを開けながら、全員いるかと聞きながら生徒を確認しない教師が何処にいるんだ。
しかも髪の色が大変だ。事故ってる、黄緑なんて見たことない。
そんな担任を見て、クラスの生徒たちは皆口を縫い止められたようにだんまりだ。
「あ、出席の前に俺の自己紹介か。えーっと、この度1年A組の担任になった篠塚雷光(しのづからいこう)だ。授業は数学を持つ。好きなものは酒と甘いもんで、彼女は随時募集中。まあ適当に宜しく頼むわ」
我が道を行く、といったこの担任に、少しばかり皆の緊張は緩んだようだった。自己紹介の所では皆からアハハハ、と笑い声が上がっている。
「じゃあ出席取るぞー。名前呼ばれたヤツはデッケェ声で返事しろよ。まずは…、暁夜美(あかつきよみ)」
「は、はいっ」
緊張したようで、少し声が上擦っている。さっきの子だ。夜美か、顔に合った可愛い名前だな、とか思いながらふと、肝心なことに気がついた。
……確か席は名前順で、順番的には男子名前順→女子名前順じゃなかっただろうか。
「……お前超美人だな。俺の恋人候補に入れとくわ」
「…あの…私男なんですけど……」
「……」
「……」
「……」
「あん?俺そーゆーの気にしねぇから大丈夫だって」
「えええええええ!?」
その日、A組からはクラス全員(夜美と担任を除く)の叫び声が学校中に轟いたのだった。
色彩に富んだ視界
(春は出会いの季節だから、きっとこの出会いも運命だ)
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天使と死神の遭遇編。