混乱する頭を整理するのにいっぱいいっぱいだった俺は、何で兄さんが辛そうな顔をするのかなんて解る筈無かった
「……はぁ…」
翌日、俺は久々に学校に行った。天気は良好、眩しいくらいの太陽が照りつける…もう9月だと言うのに。
連休明け…否、夏休みでだらけてしまったこの躯に俺は思わず溜息を漏らした。
「那優、お久しぶりです」
「……っ和仁…」
にこにこして俺に挨拶する和仁に、俺は少しの苛立ちを感じた。
俺の気なんて気にもしないくせに。今度はそんな事を思った自分自身に腹が立って、何だか解らないが余計に苛つく。
何も言わない俺の気持ちを知ってか知らずか、和仁がそれを詮索する事は無かった。
「カズ…何で、何も聞かねェの」
その場のどうしようもない空気を、俺は何とかしたかった……違う。その時俺は和仁に、聞いて欲しかったのかもしれない…兄さんとの事を。
勿論そんなの和仁が知る訳ないけれど…でも、聞いて欲しかったんだと思う。
すると和仁は、驚いたような…そんな何とも言えない表情を俺に向けた。そしてそれを、俺に質問で返してくる。
「那優は聞いて欲しいんですか?貴方の、この休みの間に何があったのか」
私も伊達に貴方と付き合っている訳じゃありませんよ、何かあったかくらい私にも分かります。
そう、駄々をこねる子供に言い聞かせる様な落ち着いた口調で囁く和仁を見て
やっぱり、好きなんだ
と思った俺は馬鹿だろうか。
「和仁、俺さ───」
言ってしまえば楽になれると思った、だってもう、答えは解りきっているんだから。
"ずっと好きだった"
その一言を言ってしまえば、早く言ってしまえば良かったのに。
「あ、那優!和仁も!おはようございますっ」
「…夜美、おはようございます」
「……っ」
愛しそうに夜美を見つめる和仁に嫌気がさす。和仁に優しく頭を撫でられて、嬉しそうに微笑む夜美に気が狂いそうになるくらい嫉妬した。
どうして、そこにいるのが俺じゃないの?どうして、アイツの隣にいるのが俺じゃなかったの?
こんなに近いのに、こんなに遠い。
「あ、そう言えば…さっき何か言いかけましたよね那優?」
顔を覗き込むように聞いてくる和仁の瞳には、やっぱりもう俺は映っていなかった。
映っているのは、親友、という大きな大きな壁だけだった。
「……何でもねェ!なーんかお前等のラブラブっぷり見せられたらどォでも良くなっちゃった〜」
「な、那優!」
夜美が顔を真っ赤に染めて俺を叱る。でも迫力なんて全くなくて、男なのにこんなに可愛いって凄いと思った。
それで、やっぱり思う。何でコイツは女じゃないんだろう。女だったらまだ、諦めなんて端からつくのに。
笑っていたけど、笑っていたつもりだったけれど、俺は上手く笑えていただろうか。
「……貴方がそう言うのなら、良いんですけどね」
「……おゥよ」
ニカッと笑ってみせて、二人を見送った……もう大丈夫、そう言い聞かせたのに。
二人と別れて随分時間が経った。俺は屋上にいた。そこで、一人で声を殺して。
「っ……!」
大好きな貴方に、届かないこの想いの行方を託す事なんて出来ないけれど。
「……カズ…っ」
俺の代わりに、この空は泣いてはくれなかったけれど。
「っ……畜生ッ…!」
¨やっぱり、好きだった¨
涙と嘘と
(こんな感情、無ければ良かった)
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