それは魂を狩る死神そのものだった、
「好き」
「……」
「愛してるのよ」
また、だ。また、真紘みたいなことを言う女が私の隣にいた。
誘われて、指定された場所に行ってみたらそこはいつものホテルでもなく、学校のとある教室。
夕陽が射し込み橙色に染まったその教室には、私と彼女の二人きり。
「もう耐えられないのよ、あなたが他の女と寝てるなんて!」
「……私にどうしろと?」
「私一人にして?私を選んでよカズ。後悔なんて絶対にさせない、だからお願いよ…!」
泣きついてくる彼女に、私は溜息を吐く。
どうして本気になるんだ?私はちゃんと割り切れているのに。どうして真紘のように物分かりがよくないんだ?私はそれだったら側に置いてやれるのに。
そんな疑問を投げ掛けようにも、彼女はずっと私の名を呼んで、狂ったように声を荒げているのだ。そんな彼女にまともな話など到底望めない。
もうこの女は駄目だ、
耳元で悪魔が囁く。
「終わりにしましょうか」
「え…っ?」
「そういうの、私が一番嫌いなの知ってますよね?それを強要してるあなたはもう、私の望むあなたじゃあないんです」
「そ、んな……」
「最初に約束したでしょう?私は、来る者拒まず去る者追わず。束縛が嫌いだから、ずっと気楽な関係を続けたいと」
「そう…だけど、…でもさ…!」
「それを快諾して関係を持とうとしたのはあなたです。約束は守ってもらわないと困りますよ。それに私、面倒事は御免なんです」
「まっ…待ってカズ!わ、私が悪かったわっ!今のはほんの冗談よ!ねえカズ!だから捨てないでっ…私のこと嫌いにならないでぇ…!」
部屋を出ていこうとする私を死に物狂いで引き留める彼女は、御世辞にも綺麗とは言えなかった。化粧は落ちて、涙でもう顔はぐちゃぐちゃだ。至極明るい口調で、今までのことを無しにしてくれとせがむ彼女に、少し嫌気が差した。
私は醜いものが嫌いだ。
彼女が必死にしがみついていた腕で彼女をやんわりと振り解いて、私は踵を返す。教室のドアに向かって。
「さようなら、先輩」
「……っいやあああ…!」
泣き崩れた彼女を見て、ああこれで何人目かな、なんて呑気に考えている私はきっと最低だ。
そんなことをぼんやりと考えながら私は教室を後にした。教室を出てから少し、彼女の啜り泣く声が廊下に響いていて正直、いい気はしなかったが。
「……私は、悪くない」
そんな私の呟きは、沈みかけた太陽と共に夜の闇に埋もれた。
喚く悲鳴と
オメガの冷声
(あなたみたいにしつこい人なんて、
もう私には必要ないの、だから)
───────
死神たる由縁。
題名読み
(おめくひめいとおめがのれいせい)