頭の中はぐちゃぐちゃ


「…っんぅ…んん…!」


普段クラスメイト達は、登校時間がいつも遅刻ギリギリのヤツが多い。今はまだ8時前。この時間に登校するヤツはまずいない。
誰か、そう思っても誰も来ないことがわかっているせいかとても虚しい気持ちになる。貪るように俺に口付ける智明に抵抗する力なんて今の俺には残っていなくて。
ただただ終わりの見えないその行為に涙を流した。


「んっふ、っ…ん…」

「……っ那優……可愛い」

「ッ……!?やめ…っ…!」


智明の唇がやっと離れた。解放された、そう思いながら息を整えていると智明の手が俺の制服の中に忍び込む。冷たくなっている智明の手に思わず感じそうになって、懸命に首を振って抵抗した。


「もう乳首立ってんじゃん…ホント可愛いねー那優は」

「やだやだ…っ!」

「何が嫌なのさ。ここはまだ起ってないけど、まあこれからだしね…」

「やだよ智明ぃ…止めてッ…」

「とか言ってホントは悦んでるんでしょ?インラン」


次々に浴びせられる卑猥な言葉に俺は体の芯がじわじわと熱くなっていくのが分かった。それが悔しくて悲しくて。
抵抗の言葉を言いながら俺は智明を睨み付けた。


「…俺のこと煽ってる?」

「ふざけンなっ!早く離せよ…!」

「顔真っ赤だぜ那優…すっげぇ可愛い」

「やだぁ………っ!!」


智明の手が俺のズボンの中に入った。もうダメだ!そう思い俺は自分の無力さに腹を立てる。どんなに抵抗してもその手を止めることは出来ずに、俺は悔しさで唇を噛んだ。
その傍ら、いつかのように大好きな貴方が俺を助けてくれると心の何処かで信じていた。


「か、ず…」


小さく呟いて、涙で霞んだ世界を閉じた。
もう、どうにでもなればいい。


「……そこで何をしているんですか赤城くん」

「見て分かんねぇの?お楽しみ中なんだけど………色男が何の用だよ」


一瞬、何が起きたのか分からなくて。今までずっと聞きたかった声が、ずっと逢いたかった人が、そこにいる。
来てくれた、そう思う反面、こんな醜態を大好きな貴方に見られたことに対して酷くショックを受けた。


「明らかに嫌がってますよ」

「これから好くなんだって。コイツ淫乱だから、無理矢理の方が感じやすいんだよ」

「やっ…ちが…!!」


智明が俺の涙を舐めとると、ぞわぞわとした気持ちの悪い感触が体を這い上がった。声を上げて拘束された腕をどうにかして動かそうと抵抗する。
しかしずっとそこにいる筈の和仁はピクリとも動かず、俺を見据えていた。和仁の深紅の瞳に吸い込まれそうになって、俺は思わず息を飲む。


「やれやれ、貴方は随分下等な品性をお持ちのようですね」

「はあ?」

「強姦なんて男の風上にも置けない、と言ったんですよ。わかったらさっさとその汚ならしい手を那優から退けてくれませんか。目が腐ります」


恐らく、怒っているだろう和仁のその言葉に俺は冷や汗を流した。いつもの和仁はもっと、柔らかい空気を纏っている筈なのに。
その威圧感だけで、それこそ人を殺してしまえそうなぐらいに冷たい和仁がそこにいた。
智明の額にも、うっすらと冷や汗が滲んでいる。


「はっ…言ってくれるじゃねぇか、"人殺し"のくせに」

「………聞こえませんでした?その汚ならしい手を那優から退かせ、と言ったのですが。貴方は日本語が理解出来ないようですね、残念です」

「なん……ぐッ!」

「……え?」


残念です、そう言った和仁はさも当たり前のように俺達に近付き、智明だけを思い切り蹴り飛ばした。
あまりの早業に目をぱちくりさせるだけの俺は、今まで張り詰めていた糸が切れたように床にへなへなと座り込む。


「藤波…っ生徒会長のクセにこんなことしていいと思ってんの…?」

「生徒会長だから何だと言うのです?大切な人を守る為に振るう暴力は正義です」


はだけた服を握り締めて、俺は二人のそんな会話を聞く。蹴られた腹を抱え、床に転がる智明を見下ろす和仁。
和仁の目はやはり、冷たい。でも和仁の『大切な人』という言葉に俺の胸は高鳴る。もしかしたらそれは、俺にも和仁の一番になれる可能性があるってこと?
胸に抱えたこの一抹の希望が消えてしまわないように、俺は唇を噛み締める。


「は…はははっ……何で藤波がモテんのか、やっと分かった気がする」

「どういう意味です?」

「お前さ、自覚ないのが一番質悪ィよ。悪魔だね、藤波は…そうやって今までいたいけな女の子達の心奪ってきたんだと思うと、俺ゾッとするよ」


智明は腹を擦りながらのそのそと立ち上がると、和仁に何か耳打ちをしていた。
和仁の顔色が一瞬青ざめたように見えたのは、俺の見間違いだろうか?


「那優、俺諦めないからねー」

「っ」


先程のことがなかったかのようにひらひらと手を振って教室から出ていく智明に、俺は眉を顰める。
和仁はそれには何も言わずに、俺の前にしゃがみこんだ。


「大丈夫でしたか、那優」

「う、うん……」

「良かった」


そう言って俺の頭を撫でる和仁に目が合わせられなくて、俺は俯く。
それに、さっき智明が和仁に言った人殺しという言葉も気になって仕方がない。でも俺にはそれを聞く勇気なんてなくて、未だに俺を労るように微笑む優しすぎる和仁に俺は口を閉ざした。


『人殺し』


そう言われた時の和仁の顔は、どこか悲しげだった気がする。




募る想い

(やっぱり、好きなんだ)

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耀泰視点





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