僕は間違ってない
「耀泰」
「わ、いきなり何だよっ」
「だって寒いんだもん」
「だからって抱きつくなバカ!」
「可愛いー」
次は移動教室だからと、昼休み中に早めに教室に向かっていると廊下で誰かと話をしている耀泰に会った。嬉しくて抱きついてみると、耀泰は顔を赤くして頬を膨らます。可愛いなあと思いながら、耀泰が話していた相手を見て僕は一瞬硬直した。
「…和仁、なんで耀泰と話してるの」
「……、生徒会室からの帰りにたまたま出くわしたのでそのまま世間話を」
「随分タイミングいいね、もしかして図ってたりする?」
態度には出さないつもりが、思わずキツい言葉が口を突いて出る。和仁も僕が不機嫌だということは肌で感じていると思うから、表情には出してないけどかなりキツいだろう。
和仁に八つ当たりしても何も変わらないのは分かってる。でもキツくなっていく自分の言葉を止められなかった。
「人の恋人に手出さないでよ」
「手を出した覚えはありませんが?」
「ハッ、どうだか」
自分でも嫌になるこのひねくれた性格に、僕は心の中で大きな溜息を吐いた。でも正直な所、これくらいは許される筈だ。だってあの日の和仁は確かに手を出しているように見えた訳だし。そうやって自分を正当かした僕は耀泰が側にいることさえ忘れて和仁に牙をむいていた。
「ちょっ、何言ってんだよ閏!」
「閏」
「なに」
慌てて僕を止めようとする耀泰の制止を無視して言葉を放ったのは和仁だった。いつもよりも低い声で、微かに怒っていることが窺える。それにまた腹が立って僕はぶっきらぼうに返事をした。けれど次に和仁が言った言葉で僕の理性は完全に失われることになる。
「──…男の嫉妬なんて醜いだけだと思いますけど?」
「……!!」
呆れたように僕を見つめるその瞳に苛立ちを覚えた。
バシッ、乾いた音が廊下に響く。気が付いたら和仁の頬を思い切り叩いていた。その衝撃で和仁の掛けていた眼鏡が飛ばされ、カシャンと音を立てて落ちる。耀泰は信じられないといった顔で僕を見ていた。和仁は、俯いていて表情は分からない。
ふと、和仁が顔を上げた。視線が絡む。その時の、和仁の恐ろしく冷たい瞳に僕は思わずたじろいだ。
「ッいきなり何してンだよ!…カズ、大丈夫?」
「…ええ…」
耀泰に声を掛けられればあの冷たい瞳からいつの間にかいつものふわふわした空気を纏っている和仁。叩かれた和仁の右頬はほんのり赤くなっていた。余程心配なのか、耀泰は和仁の頬に手を添えて赤くなったそれを冷やしている。
なんで和仁ばっかり!
僕の苛立ちはもうすでに限界を超えていた。
「腫れたらどうすンだよ閏!カズは何も悪くねェだろ!?」
「…そうだね、でも僕も悪くない」
「え、ちょっ…どこ行くの!?…閏ってば!」
和仁に嫉妬してた。たかが一週間だった筈なのに。いつの間にか耀泰は和仁の側にいる、僕ではなく。悔しくて何だかもう泣きそうだ。
二人に顔を合わせず、僕は次の教室ではなく生徒会室に向かう。無意識の内に足が動いていた。後ろから耀泰が呼んでいたけれど、今の僕に振り返る程の気力はない。段々と遠ざかっていく耀泰の声に僕は底知れぬ安心感を抱いていた。
「何だよ和仁のヤツ…!!」
生徒会室にある副会長の自室に入ると抑えていた苛立ちが一気に爆発した。机の上に乗っていた書類を腕でなぎ払い部屋に散らかす。ぐしゃぐしゃになった書類を見つめ、微かな安らぎと大きな脱力感に襲われた。荒々しく椅子に腰掛け頭を抱える。
「なんで…」
言いかけた時、部屋のドアがガチャッと開いた。誰だろうと思いドアに目をやると、息を上げながら僕を睨む耀泰が立っているのが見える。
「何の用」
「……謝れよ」
「誰に?」
「和仁に決まってンだろ!?」
僕に掴み掛かって声を荒げる耀泰に、先程治まった筈の怒りが沸々と込み上げる。
なんで和仁の見方するの?嫌われたくないから?……じゃあ僕のことは?
否定的な疑問ばかりが僕の頭の中に渦巻いていた。耀泰、と名前を呼べばビクッと肩を震わせ恐々と僕を見上げる耀泰。その恐怖に染まった顔に僕は一種の快感を覚えた。
「僕のこと好き?」
「な、何だよいきなり。好きに決まってンだろ?っ好きじゃなかったら付き合ってねェし」
「そっか」
段々と僕が耀泰に詰め寄ればその分後退った。一端会話を切った時には部屋にあるソファに耀泰が押されるように座りそれを僕が見下ろす形になっていた。
耀泰の目は明らかに動揺していて、僕は思わず微笑んだ。
ああ、今僕だけを見てくれてる
そう考えただけでイってしまいそうになった僕はもうどうかしてる。けれど、何だか可笑しくて仕方がない。
「じゃあ和仁のことは?」
「え…っ?」
和仁の名前を出したらさっきよりも明らかに動揺してる。…やっと確信が持てた。
「…やっぱり。耀泰って和仁のコト好きでしょ?」
「っちが…ッ……!?」
泣きそうになりながら僕を見上げ、必死に否定する耀泰にまた怒りが込み上げる。
バシッ。気が付いたらまた、叩いていた。状況がうまく飲み込めていないようで放心状態の耀泰に僕はまた微笑んだ。
「でもね、今更手放したりなんてしないよ?君は僕のモノなんだから」
「やっ…止め、閏…ッ!」
次第に恐怖で歪んでいく耀泰の顔を見て僕は微笑む。嫌だと首を横に振る耀泰を無理矢理押し倒し、その後僕は何度も耀泰を犯した。
「やあっ…あっあ…じゅ、ん…!」
「無理矢理襲われて感じるなんて、かなりの淫乱だね耀泰…」
「や、だあッ…ひあっ…んんっ」
耀泰の悲鳴にも似た喘ぎ声が僕の欲を駆り立てた。涙でぐちゃぐちゃになった耀泰の顔を見てまた僕の体は熱くなる。
延々と喘ぎ続ける耀泰に僕は、優しく口付けを落とす。
その優しさは、多分最後。
jealousy
(どこで間違えたの)
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閏視点
jealousy:嫉妬
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