これが、きっと最後
「耀泰」
「ん?なに、閏」
もう暦は最後の12月になり、その4時半にもなると外はもう日暮れを迎えている。短い夕日の橙色が二人しかいない教室に射し込めば、いつの間にか夜に飲まれていった。
耀泰が名前を呼ばれて振り返れば、閏は耀泰を優しく抱き寄せた。慌てて閏を見た耀泰だったが、耀泰の首筋に顔を埋めていて表情は窺えない。
どうしたの、と問えば何でもない、という曖昧な返事が返ってくる。耀泰を抱き寄せた閏の腕はほんの僅かだが震えていて、耀泰は心配になって閏の背中に腕を回す。
「ねえ、耀泰」
「うん?」
「抱きたい」
「……は?」
ポカンとする耀泰を無視し、閏は冷たい教室の壁に耀泰を押し付けた。漸く閏の行動の意図を理解した耀泰はそれに必死に抵抗する。
ここは学校で、しかも教室。今は誰もいないが、何時誰が入ってくるか分からないこの状況でヤるなんて考えられない!
そう思って耀泰は抵抗するが、閏の手はなかなか止まらなかった。
「やっやだ…ッ閏…!」
「…嘘ばっかり、ホントは期待してるくせに」
「な…っ!そんなこと思ってない!」
止めろ、そう制止の声を掛ければふと閏の動きが止まる。耀泰はほっとして閏を見上げるが、見たことのない…何だか怖い顔をした閏がそこにいた。耀泰は驚いて抵抗していた腕の力を抜く。それに気付いた閏はまたいつもの顔に戻って耀泰に微笑みかけた。
「やっぱり期待してる」
「え……っん…あ…ッだ、め!」
「何が?もうこんなにしてるのに」
「ひぁっ…ちが、あっあ…ん…ッ!」
「可愛い」
懸命に閏の肩の力を押すが、何度も体を重ねている内に感じやすくなっていた耀泰の体はビクビクと跳ね快感に飲まれていく。それを嬉しそうに見下ろす閏の手はやはり止まらず、耀泰の口からは甘い声が止むことなく漏れていた。
休みなく与えられる快感で、壁に押し付けられていた体を支える足はガクガクと震え、耀泰の体は閏にもたれ掛かる。
「んあっ…あ…も、立ってらンな…ああ…っ!」
「嗚呼…そっか、ごめんね」
必死に閏の服を握り立とうとするが上手く力が入らない。まるで自分の足ではないのではないかと錯覚させる程、耀泰は閏から与えられる快感に酔っていた。
閏は自分に縋り付く耀泰の頭を優しく撫で、いきなりパッと手を離した。当然いきなり行為を中断されたので物足りない耀泰は閏を物欲しそうな目で見つめる。そんな耀泰を見て機嫌を良くした閏は、耀泰から体を離せば近くにあった椅子に腰掛けた。
「な、んで…閏…っ」
「続きは勿論する。でも耀泰、君から始めるんだよ」
「え…?」
首を傾げ閏を困ったように見つめる耀泰に閏は嬉しそうに微笑みかけ、次に衝撃的な言葉を耀泰に投げかけた。
「手始めにここに跨って。言ってる意味分かるでしょ?」
「……むっ無理だよそんな…ッ!」
「まあ、耀泰が一人でシたいって言うんなら仕方ないけど」
どうする?と意地悪く耀泰に問えば、耀泰の顔は見る見るうちに泣きそうになった。それが閏の加虐心に火を付けていたのは閏しか知らないが。
そんな耀泰の方はというと、まだ少しの理性は残っているのだろう。だが、顔は上気しお預けを食らっている体は小刻みに震えている。
悔しそうに唇を噛めばふらふらと立ち上がり、閏の前に立つ。
「…じゅ、ん…」
「おいで」
「んっ……!」
閏が手を広げると耀泰はその腕の中に飛び込んだ。今の体制はというと、耀泰が閏の膝の上に跨って馬乗りになっている状態だ。そんな恥ずかしい状態がまだ微かに残っている耀泰の理性を完全に壊す。
「も、早くシろよばかッ…!」
「せっかちだよね耀泰って、そんな所も可愛いけど」
「あっ…んんッあ…っ」
生理的な涙を零しながら狂ったように喘ぐ耀泰に、閏はまた優しく微笑む。与えられる快感に夢中になっている耀泰にはそれが見えておらず、ただ必死に閏にしがみついて快感に耐えた。
「ん…やあっ…あっあ…!」
「嫌?嘘吐かないで耀泰。こんなに腰振ってるのに素直じゃないね」
「ちがッああ…も、イっちゃ…ッ!」
「いいよ」
ビクッと耀泰の体が振れたかと思うと口からは甘い悲鳴が漏れ、背中は弓なりに仰け反った。全てを吐き出した後、荒い息を懸命に整えながら虚ろな目で閏を見上げる。視線が絡めば、閏は耀泰の額にキスを落とし耀泰の体を抱きしめ耳元で囁いた。
「今度は僕にも付き合ってよ」
「あっ…は…ッ俺まだ、イったばっか…あっ…!」
「気絶するまで抱いてあげるから覚悟してよね」
「ふあ…ッ…ひぁっあ…っ」
耀泰を優しく抱きしめたまま、閏は本能のままに行為を進めた。教室には耀泰の甘い喘ぎ声と、淫らな水音が木霊していた。
情事後、宣言通り気絶してしまった耀泰を抱きしめた閏はポツリと一言小さな声で呟く。
「和仁にも哉継にも渡さないから」
ずっと僕の側にいて、そう言えば閏の腕の中で幸せそうにすやすやと眠る耀泰の柔らかい金髪を、閏は愛おしそうに撫でた。
その時確かに、何かを支えていた糸がプツリと切れた音がした。
最後の晩餐
(僕の愛は潰えることはない)
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