まだ、僕ら道無き道を歩いていた




「…」

「……」


翌日、いつも以上に機嫌の悪い哉継とそれに比例して落ち込んでいる耀泰がいた。クラスのムードメーカー二人が静かだと、普段賑やかな7組もどこかぱっとしない。
不意にそんな重い空気の中で言葉を発したのは意外にも耀泰だった。


「哉継、あの…」

「………俺は、お前が閏と付き合おうが何とも思わねぇから。別にそのせいで機嫌悪ィ訳じゃねぇし」


聞き耳を立てていたクラスメイト達は哉継の言葉で一気にざわついた。
耀泰は新聞部の調査による『抱きたい男』──何もつっこまないで下さい──堂々の第一位。先輩からも熱いエールを送られている人気者の耀泰が誰かと付き合ったとなるとかなりの大事だ。
ちなみに相手の閏も『抱かれたい男』第三位に入るくらいの人気だ。その為かざわめきはなかなか治まらない。


『マジかよ!俺狙ってたのに!!』

『俺超ショックなんだけど!』

『閏って1組のあの閏様!?信じらんない!』


哉継のこの発言は、ただの八つ当たりに近かったのだが耀泰には分からなかった。知られてしまったと言う羞恥と、それを嫌味っぽく言った哉継に対しての怒りが耀泰を駆り立てる。


「…っ哉継のバカ!大っ嫌い…!!」

「……!」


涙声になりながら耀泰は教室を飛び出した。哉継はそんな耀泰の小さくなっていく背中を見つめ、悔しそうに唇を噛んだ。
不意に頭上から声が降ってきた。上を見れば赤城が珍しく難しい顔をして哉継を見た。


「ホントお馬鹿だねー哉チャンは」

「……うるさい」

「不器用にも程があるんじゃねーの?見てたけどさ、今のは明らかに哉が悪ィっしょ」

「分かってんだよそんなこと!」


いきなり赤城を怒鳴りつけた哉継は、ざわめき立っていたクラスを水を打ったように静かにさせた。赤城も最初は面食らっていたが、段々と口元に意味深な笑みを浮かべた。


「……俺は一年もあれば絶対にアイツをオトせるけど?」

「!」


風を切る音がした。そしてすぐ後に、パン!という何とも気持ちのいい音がした。それは微笑みを絶やさず哉継からの強烈な拳を受け止めたものだ。
周囲の人間たちはそれを固唾を飲んで見つめた。


「危ねぇな」

「…喧嘩売ってんのか?」

「それだけ元気有り余ってんなら那優のこと追いかければ?哉チャン」

「ふざけんな」


二人の喧嘩は哉継が赤城から目線を外し一時終結した。そろそろ授業も始まるというのに、やはり耀泰は戻ってこなかった。




「閏……」

「どうかしました?」

「あ、閏…っ閏は…?」


閏の顔を見て安心しようとしたのだろう。耀泰は無意識の内に一組に駆け込んでいた。あまり酸素を吸い込めず、涙目になりながら耀泰は床を見つめ息を切らしている。
不意に上の方から声が聞こえて顔を上げればそこにいたのは不思議そうに耀泰を見下ろす和仁がいた。


「閏……菊鹿 閏ですか?」

「……お前…あの時の」

「……おや、私どこかで貴方とお会いしましたか?」


和仁は内心、嗚呼この声は多分あの時の閏の恋人なんだろうなと思いながらも平然を装っていた。耀泰はまさか今会えるとは思ってもみなかったため大きく目を見開き少しの間放心状態だった。
暫し二人の間に沈黙が流れたが、耀泰が思い出したかのようにポケットに手を入れた。


「えっと、その…コレ」

「………それは…」

「覚えてないかもしンないけどさ、前に廊下でぶつかって。そん時にコレ落としてったから…」


耀泰が十字架を差し出し次の言葉を言おうとした時、和仁はその言葉を遮り十字架を受け取れば優しく微笑んだ。


「ありがとうございます」

「……!」


耀泰は驚いて目を丸くした。一番見たかった彼の表情、自分にだけ向けられたソレに思わず息を飲む。
その和仁の微笑みは多分、耀泰が見てきたどんなヤツ等のソレだってかなわないくらい、綺麗だと思えたから。
驚いた顔をして固まる耀泰に声を掛けようとした和仁は思い留めた。すぐ近くで閏の声がしたからだ。
案の定閏は教室に入ってくるなり耀泰を見つけ二人の元に駆け寄る。


「あれ、耀泰!……と、和仁。どうかしたの?」

「……私はオマケですか…」

「何、和仁」

「いいえ何も?」


閏はやはりと言った反応を見せた。まあ自分の恋人と他の男が一緒にいたら難色を見せるのは当たり前なのだが。
耀泰は今ここではあまり言い出せない話なので黙り込んだまま。そんな耀泰を察したのか、閏は耀泰の手を取り和仁に
次の時間はサボるね
と言って教室から出て行った。


『ちょ、あの二人って付き合ってんの!?』

『那優って何なの!?ちょっと顔が可愛いからって!』

『だよねー、あの藤波様とも話してたし』


なんてくだらない会話だろう、ふとそう思った和仁だったがやはり口にはしなかった。
小さく微笑めば、仲良く手を繋いだ二人の小さな背中を見えなくなるまで眺めていた。丁度授業開始を知らせるチャイムが鳴る時に二つの背中は消えた。





遅すぎた再会

(その再会はあまりにも突然で)

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