それは、困る


「っ………」


平和な藤波家に、大事件勃発。


「……和兄様、お熱が38℃を越えています」

「…何かの間違いでは…」

「ご覧になりますか」

「遠慮します…」


朝、やっと日が登り始めた7時前。昨日から体調が悪かった私はなんとなくで熱を測ってみた。そもそもその行為が間違いだったのだ。
最近流行りのインフルエンザかと心配もしたが、一応予防接種は受けていた(父親と姉が過保護で無理矢理受けさせた)ため、ただの風邪だとは思う。しかし恐らく、今日学校に行くのは無理だろう。


「和兄様、学園には私が連絡しておきますから、今日はご無理をなさらずに部屋で安静にしていて下さい」

「しかし美鶴」

「和兄様が熱を出してしまったことを父様や姉様に知られる訳にはいきません。何かと面倒ですし」

「いや…まあ…そうなんですけど…」


以前私が39℃の高熱を出してぶっ倒れたとき、父と姉は馬鹿みたいに慌ててそれはもう騒がしかった。しかも父は、それが原因で血圧が一気に上昇して一緒にぶっ倒れるという最悪な思い出があるため、なるべく体の管理には気を付けていたのだが。


「幸い、今日は騒がしい二人はいませんから大丈夫だとは思いますけど」

「…わかりました…」


有無を言わせぬ、我ながらしっかりしていると思う妹の優しさに私は微笑み、大人しく部屋で休むことにした。

いつの間にか外は薄暗くなっている。体調は朝よりも幾分かマシになったが、未だに倦怠感と息苦しさが体を支配していた。


「兄様、起きていますか」

「…はい。何ですか美鶴」

「お客様です」


部屋のドアを開けた妹の後ろにいたのは、心配そうに眉を顰める夜美だった。雷に撃たれたような衝撃に慌てて起き上がった私は、熱で茹で上がった頭に走る強烈な痛みに顔を歪める。
夜美が私に駆け寄り何かを言っているが、聞き取れない。耳鳴りが酷い。私は夜美の泣きそうな顔を見てまた、目蓋を閉じた。


「……かずひと…」

「…っ……?」

「ごめんなさい…っ私が風邪移しちゃったからこんな…ふぇっ…」


うっすらと重い目蓋を開けると、ボロボロと涙を流し謝罪の言葉を呟く夜美が視界に飛び込んできた。
名前を呼んでやれば、彼の瞳は水を与えられた魚のようにいきいきとしていて、それがいつになく嬉しかった。


「か、ず…!和仁…っ!よか…っ…良かったぁ…」

「心配掛けてすみません……ずっと傍にいて下さったんですか」

「うん…うんっ…」


和仁といっぱい話したかったから、と泣き腫らしたぼったい目を擦りながら、照れ臭そうに夜美は笑う。そんな夜美が可愛くて、思わず私は抱き付いた。


「かず…?」

「可愛くて、つい」

「あ、う…可愛くなんか!」

「真っ赤になってる夜美も、可愛いですよ」

「〜〜〜もうっ…」


ぷしゅー、という効果音を付けても可笑しくないくらい、夜美は一気にしおらしくなった。それが可愛くて、いつもの調子ならそのまま襲う所だが、生憎今はすこぶる調子が悪い。残念だが、仕方がない。
夜美の髪に口付けて、私は彼に微笑んだ。


「夜美、私の風邪が治ったら覚悟してくださいね。特に夜は」

「っ!ばか!変なこと言わないでくださいっ」


そっぽを向くあなたに、私はとりあえず声を掛ける。しかし一向にこちらを見ない夜美に、私からは苦笑いが零れた。きっと真っ赤になっているだろう愛らしい顔を想像しながら、私は夜美の耳元で意地悪な言葉を投げ掛ける。


「愛してますよ」

「…っ、和仁って、意地悪…」

「ふふ、今から楽しみですねぇ」

「〜〜っ和仁のばか!」


怒ってしまったようだ。
バタバタと私から離れ、帰り支度を急いでする夜美に、私は少しの寂しさを感じた。
なにも言わずに出ていってしまうのだろうか、とぼんやり考えているとふと、夜美が真っ赤な顔をしながら私に言った。


「…早く治して、元気になったら…す、好きなようにしてくれていいですからね!」

「……はい?」

「だっ、だから!その………えっちとか……してあげてもいいって意味で……!」

「………ぷ」

「な、何がおかしいんですかっ!和仁のばか!もう知らない!」


ドタバタと部屋を出ていった愛らしい彼に、私は笑いが止まらなかった。



天使の愛し方
(最近天使は、ツンデレというスキルを取得したようです)

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藤波 和仁×暁 夜美
激甘。
この二日後くらいに全快する和くんに、学校で襲われる予定の夜美さん←
なにもう、こいつら可愛い(´д`)ハアハア←親馬鹿





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