あなたの生まれた日
「あとは頼むぞ二人とも」
「はい。真市、良いお年を」
「ああ、お前らもな」
「ありがとうございます」
12月24日。学園の終業式が終わり、冬休みが始まった。とは言ったものの、生徒会役員達には未だ休息は訪れていない。来年の行事やらの準備でここ一週間はまともな息抜きすら出来なかった。
やっとのことで役員たちが仕事を終えたときにはもう既に太陽は沈み、寒空にはすっかり月が顔を出している。
和仁と夜美が、他の役員達を先に帰らせ最後の点検をしていた。クリスマスだ何だと、二人で会話に華を咲かせていたとき、不意に夜美が和仁の名前を呼ぶ。
「………和仁」
「はい?」
「…あ、あのね、私、クリスマスは一日中和仁と一緒にいたい…かな…」
愛らしく目を伏せ、頬を真っ赤に染めた彼は酷く魅惑的で、和仁は思わず生唾を飲む。
「…じゃあ、今日は何処かのホテルにでも泊まりますか」
「えっ」
「家では色々邪魔も入りますし、私も夜美と一緒に過ごしたいですから」
「和仁…」
嬉しそうに微笑む夜美に、和仁はささやかな幸せを噛み締めた。
「夜美」
「は、はいっ」
「………そんなに畏まらなくてもいいですよ?」
「あ、う、でも…」
藤波家が経営しているビジネスホテルのスイートルームの一室。高級ソファーにちんまりと腰掛けた夜美は、何処か落ち着きがなかった。目の前にいる和仁の目を見ようとせず、ずっと伏せられた大きな瞳は不安で揺れている。
「怖いですか」
「え、あ……怖くは、ないです…。ただ、変に緊張しちゃって…」
少し気まずそうに和仁を見つめる夜美に和仁は微笑む。宝物に触れるように優しく夜美の頬を撫でれば、和仁はその額にまた優しく口付けた。
「期待しているんですか、珍しいですね」
「あ、う…私だって、シたい時くらいありますもんっ」
意地悪く微笑んで、羞恥心で顔を染める夜美を苛めてやろうかと考えていた和仁に、夜美のこの発言は心臓に悪かった。にやけそうになる口元をどうにか抑え、取り敢えず夜美を抱き上げベッドに押し倒す。
「……今日はやけに素直なんですね、何か企んでいるんですか?」
「企んでなんか…っただ…」
「ただ?」
「っ…和仁が、欲しい…の……」
「………!!」
和仁が一瞬、夢でも見ているんだと錯覚する程、夜美の言葉は積極的過ぎた。いつもの夜美は、こういった場面になるとかなり消極的なので新鮮だったのだろう。
和仁の中で、確かに欲望を抑えていたストッパーが外れた。第一、こんな嬉しい言葉を言われて優しく抱ける訳がない。彼はそう自分を正当化した。
「…加減、しませんからね?」
「う、ん」
「夜美……っ…」
「かず…好きっ好き…!」
一通りの情事が終わる頃にはもう日付は変わり、クリスマスを迎えていた。二人は未だ火照りの残る体を寄せ合い、事後の余韻に浸っている。
「日付、変わっちゃいましたね…」
「……和仁、」
「はい?」
「誕生日、おめでと…」
「!」
そう言って夜美は驚きを隠せない和仁に抱きついた。
「夜美…、」
「一番にね、祝いたかったの。クリスマスだし、誕生日だし、25日はなかなか一緒にいられないなって思って…。だから前の日から一緒にいれば、一番に和仁に」
「…本当に貴方は……」
「…和仁?」
突然強い力で抱き締められた夜美は、どうしたの、と問い掛けた。しかし夜美の声は、和仁の沈黙という応えに掻き消された。
和仁の顔は見えない。だが彼の肩は酷く震えている。
夜美はそれを見つめ、何も言わずに彼の背中を優しく抱き締めた。
聖なる夜は、
(二人の距離が縮まる日)
──────────
藤波 和仁×暁 夜美
クリスマスみたいな、誕生日みたいなネタ。
和くんは最後、感動しすぎて泣いています。ここまで誕生日が嬉しいと思ったことはないだろう←
いやあ、新年明ける前に書き上げられて良かった(笑
prev turn next