どこが好きって聞かれたらきっと、


「夜美」

「和仁、」

「紅茶、淹れてもらってもいいですか?」

「うん」


短い会話でも、私は幸せで。気だるげに仕事をしている彼は何だかいつになく格好よくて。何でもない会話なのに緊張してしまう私は未だに、彼の恋人なんだという自覚がないのだと自覚する。
少しの沈黙が私たちを包んでいて。そんな中私はぼんやりと彼を見つめていた。そしたらうっかり、熱い紅茶を溢してしまった。


「あ…っつ…!」

「!」


カシャン、と音がして私の足元に粉々になったカップが散乱する。それを避けようとしてよろめいた私の足は縺れた。崩れた体に次来るだろう衝撃を覚悟したのに、何故かそれはいつまで経っても訪れない。
恐々と目を開ければ、肩に感じたのは確かな温かさ。


「へ、」

「大丈夫ですか夜美!指は切ってないですか!?火傷は!?」

「だ、大丈夫…です…」

「本当ですか?………良かった……」


私の手を取り、必死に私を抱き止めるあなたに。私が大丈夫だと答えればへにゃっとした甘い微笑みが零れたあなたに。私はどんなに愛しいと思っただろう。


「念のため冷やしましょう、腫れたりなんかしたら大変です」

「うん」


後ろから抱き締められて、指に湿布を貼ってもらった。その手付きは丁寧で、何より優しかった。
湿布を貼っている間にも和仁は色々なことを話してくれる。そんな彼の側にいられる私はもう、嬉しくて仕方がない。


「……夜美」

「なんですか?」


不意に名前を呼ばれて大好きな和仁を見上げたら、一瞬、ほんの一瞬だけ、凄く悲しそうな彼の顔が見えた気がした。


「……和仁…?」

「もう、怪我なんてしないでくださいね」


抱き締められる力が強くなる。何か、心臓がきゅっ、と締め付けられるような感じがして、怖くなった。
和仁は終始苦しそうな、悲しそうな顔をしている。それが何故かを私は理解できなくて、余計に怖くなった。


「かず……?」

「私の心臓が、あなたを想いすぎて壊れてしまいますから」

「え?」


どういう意味?と問い掛ける前に私の唇は塞がれていた。上を向かされているので息がしづらい。
すぐに離れた唇は、名残惜しそうに銀色の糸を引いていた。


「夜美」

「は、はい」

「     」


耳元で彼が囁いた言葉は、どこか哀しげで、今にも泡になって消えてしまいそうな程儚かった。



こえにならない
(貴方の全てが、愛し過ぎて)

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藤波 和仁×暁 夜美
イチャイチャ。
夜美さんは声フェチという設定があった気がしなくもない←





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