取り敢えず俺にとっては、地獄


「起きな雷光、朝だよ」

「………」

「お兄ちゃん朝だよー」

「………はあ」


そういって俺の部屋にずかずかと入ってくる女二人に俺は溜息を吐いた。
俺の兄弟で上が姉の嵐、スタイルもよく美人で料理の腕は超一級だがかなりの男勝り。下の妹霧華は黙っていれば相当可愛い。シスコンではなく本当に。しかし外見と中身が違いすぎて兄として結婚できるかどうかが心配で堪らない。


「お兄ちゃん、起きないとちゅーしちゃうぞー」

「止めろ霧華」

「だって久々に兄弟揃っての休みなのにお兄ちゃんがぐーすか寝てるんだもん」

「どさくさに紛れて俺のベッドに入り込むな」

「お兄ちゃん好きー!」

「ハイハイ」


…………霧華はかなりのブラコンらしいのだ。俺が姉だったらまだ良かったのだろうが、霧華とは性別から違う。好かれてるのは嬉しいが、ここまで来ると頭を抱える。


「いつまでいちゃついてるんだお前等、朝飯が冷めるだろ。早く起きろはっ倒すぞ」

「お姉ちゃん口悪ーい」

「悪いか」

「ううん、お姉ちゃんらしくて私は好きだよ。でもお兄ちゃんの方がもっと大好きー!」

「わかったわかった、さっさと起きろ」


俺が起き上がればお兄ちゃん、と俺を呼んで背中から抱き付いてくる。本当に結婚……否、寧ろ彼氏なんて出来るのだろうか。
悩む俺を余所に、霧華は相変わらず俺にべったりだ。さすがに妹相手に欲情はしないが、一度霧華に襲われかけたことがある(その時霧華は泥酔していた)ためそれ以来、俺の部屋に来るときは必ず姉貴が同行することになっている。


「お兄ちゃんっ今日は皆でお出掛けするよね?」

「俺は別にいいけど」

「やったぁ!お姉ちゃん、お兄ちゃん一緒に行ってくれるって!」

「良かったな」

「じゃあ早く朝御飯食べよ!先に下行ってるねっ」


パタパタと可愛らしく駆けていく霧華に呆れつつ、一緒に行くと言って喜んでくれていたことに俺は微笑む。ふと、姉貴が霧華を見送りながら俺に一言呟く。


「雷光、霧華は本気でお前のことが好きらしいな」

「……そうだな」


深刻そうな顔をする姉貴を俺は直視出来ず、ベッドの横に置いてあった煙草に手を伸ばした。火を点ければ、少し心が落ち着く。窓から青い空を見つめ、俺はまた溜息を吐いた。


「今まで何度も色々な男に告白されてきているのに、好きな人がいるから、という一点張りで悉く断っているらしい」

「…………」

「お前は変な気を起こすなよ。アイツはもう普通の女の子じゃないんだ」

「わかってるよ」


わかってる、霧華はもう二十歳で巷で大人気のトップモデルだ。姉貴の言葉に俺は何も言えず、苦し紛れにわかってるとだけ言った。口から白い煙を吐けば、姉貴はふらっと窓際へ向かう。煙草が駄目な訳ではないが、そういう気分なのだろう。


「霧華は小さい頃からお前の後を付いて回っていた。最初は兄弟としての好意だったのだろうが、今でも霧華の初恋は続いているんだ。憧れや尊敬と…愛の区別なんて出来やしない」

「……姉貴」

「悪かった、忘れろ」


俺と同じように溜息を漏らした姉貴はどこか悲しそうで、まだアイツのことが忘れられないんだと思うと胸が痛い。


「………まだ忘れられねぇのか、夏樹のこと」

「……夏樹は、もういないんだ。何故私がアイツを思い出さなければいけない、辛いのは自分がよくわかってる」


悔しそうに目を伏せる姉貴は昔、従弟の夏樹に報われない恋をした。夏樹は知っていたが、何も言わなかった。結局姉貴は何も言えないまま、俺は夏樹の本心を聞けないまま、アイツは不慮の事故で亡くなった。
重苦しい空気が部屋に漂う。姉貴は空っからに晴れた青い空を見つめ、今何を思っているのだろうか。夏樹のことか、それとも自分のようになってしまいそうな霧華のことか。
煙草を灰皿に押し付け、俺もまた青い空を眺めた。


「そろそろ行かねぇと、霧華が待ってるぜ」

「あ、ああ…そうだな。行こう」


慌てて俺の部屋から出ていく姉貴の頬に、うっすらと涙の跡があったことを俺は見て見ぬ振りをした。


「俺達は結局、誰も報われねぇんだよ」


俺の初恋は、あんたが夏樹を好きになったと知った時点で終わっているから。




愚者の追悼

(俺達兄弟はいつも報われない恋をする)

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篠塚 雷光+α。
あれれ、従弟←姉←雷光←妹という何ともまあ可哀想な一方通行式完成。





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