王子のキスで目覚める眠り姫
「夜美」
「あ、和仁。どうしたんですか?」
まだ日が落ちるのが早い3月、すぐ暗くなった藍色の空にはたくさんの星が輝いていた。
生徒会の仕事で学校に残っていて、愛する人と共に過ごしているせいで時間の感覚などとうの昔に無くなったに等しいのだけれど。
彼は愛らしく私に微笑み、腕の中にはこれまたホワイトデーだからと言って貰ったのだろうチョコレートやら何やらが抱えられていて。柄にもなく、嫉妬してしまった。
「……これ、受け取ってください」
「え……?」
「前に、欲しいと言っていたでしょう?バレンタインのお返しです」
私が渡したのは少し大きなクマのぬいぐるみ。以前夜美と二人で出かけた時に、ショーウィンドウの中のこのぬいぐるみを見つめていた夜美を思い出して衝動買いした。
素材がいいのか、かなりの金額だったがそんなことは気にならなかった。
「あ、ありがとう…和仁」
「良かった」
嬉しそうに、少し顔を赤らめながら微笑んだ夜美に私は理性を失いかけたけれど、いきなりそんなことをしたら夜美に嫌われてしまうだろう。
今までたくさんの女と付き合ってきたが、自分がここまで臆病になるなんて思わなかった。
そんなことをぼーっと考えていたら、夜美が顔を真っ赤にしながら私を呼んだ。
「和仁、和仁」
「なんです?」
チュッと軽いリップ音が部屋に響いて、驚いて夜美を見ればぬいぐるみを抱きしめて林檎のように真っ赤になっていた。
ふと目が合えば、「えと、ぬいぐるみのお礼です…!」なんて一生懸命に答えて、嗚呼もう、なんて愛らしいんだろうか。さっきまで自分を抑えていたほんの僅かな理性が吹っ飛んだ気がした。
「…夜美…」
「かず……っ!?」
唇を重ねれば驚いて目をぱちくりさせる夜美。そんな彼をまた愛しいと思って、またキスをする。
角度を変える度に夜美から漏れる声がいやらしくて、体の芯が熱くなった。
「んっ…う…」
「……っ」
苦しそうに眉を寄せ、ぽろぽろと涙を流す夜美にまた欲情した私は末期だろう。
ここまで長い口付けは初めてだったハズだ、私はいつもどこかで自分をセーブしていたのだから。だが今日は違うらしい。セーブどころか激しくなる一方のその行為に、自分自身戸惑いを感じていた。
「は、あっ…かず…」
「っ…!」
漸く唇を離した時の私を見上げる夜美の表情は、苦しげで、瞳には涙が溜まり、どこか艶っぽくて。
私の体には雷に撃たれたような訳の分からない衝撃が走った。
気付けば私は夜美をソファに押し倒し、無我夢中で彼を犯していた。
「あっ…いや…」
「嫌?なら止めてもいいんですよ」
「んんっあ…意地悪、しないで…っ」
行為の最中の夜美は、綺麗なくらいに乱れて、漏れる声も今まで聞いてきたどの女のそれよりもいやらしく私を誘った。
「んあっ…あっう…」
「夜美……愛してます」
「ん…わ、たしもっ…和仁…っ」
今なら、私の背中に感じる鈍い痛みさえ愛しいと思う。夜美が付けた傷なら喜んで受けよう。
私の下で薔薇のような香りを感じさせ、美しく乱れる夜美に、どうしようもなく愛しさが募った。
「ああっ…和仁…っ!」
「っ夜美……」
ああ、誰かと繋がることがこんなにも満たされるなんて思わなかった。
愛することがこんなに素晴らしいなんて思わなかった。
王子が見つけた眠り姫
(もう離さない)
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和仁×夜美
ほのぼの裏、ぬるめ。
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