君は純粋で羨ましかった


パサッ
空から落ちてきた、一枚の紙。
そこには、赤い球体と細身の一輪挿しにいけてある赤い薔薇が描かれていた。それは私の髪の色を彷彿とさせる少し明るめの赤色だった。
まるでプロが描いたのではと思うほど、その絵は綺麗で。
でも言葉では表現出来ない、絵から感じるどことない幼さと虚無感に私は首を傾げた。
…私はそれを拾い上げ辺りを見回した。するとまだ幼い子供が一人、私の方に息を切らしながら走ってくるのが見えた。


「お姉ちゃんっ…その絵僕のなの、返して!」

「嗚呼…すまない」


少し顔を赤くして息を荒げているのをみると、大方ここらの家に住んでいる子供だろうと思いつつ、少年に不思議な絵を手渡した。


「ありがとう!」


向日葵の様に微笑む少年に、私は少しの興味を抱いていた。そして彼のモノだと言うあの不思議な絵の作者が知りたくて仕方なかった、何故だかは分からないが。


「…この絵は、お前が描いたのか?」

「うんっ僕ね、林檎好きなの!」


照れくさそうに笑う少年の言葉に耳を疑ったが、私が先程この絵から感じ取った言い様のない幼さは、この少年のせいなのかと思うと妙に納得した。


「そう…絵を描くのが好きなのか?」

「うん!あと、赤い色が好きっ!だからお姉ちゃんの真っ赤な髪、僕大好き!」


キラキラと目を輝かせる少年に私は思わず微笑んだ。
無邪気過ぎる少年に、私は自分が失ってしまった何かを見出た気がした。


「あ、僕もう帰らないと!」


思い出したように慌て始める少年に、もう少し話がしたかったと心の片隅で思いつつ私は少年のことを見つめた。


「嗚呼、一人で大丈夫か?」

「………うん、すぐそこだから」


複雑な面持ちで少年が指差した先には、大きな総合病院。
……そう言えば、この少年は今パジャマだ。もう昼間の2時を回っている。
まさか、何か病気を…?
私の顔が険しくなっていくのを感じ取ったのか、少年はすぐに笑顔を取り戻していた。


「……お姉ちゃん、明日もここに来てくれる?僕、お姉ちゃんともっとお話したい!」

絵を持って嬉しそうに……でも何処が哀しそうな……笑う少年に私は"勿論"と肯定の返事をした。
私の返事を聞いてすぐ、その少年はまた向日葵の様に笑って、帰っていった。


「ばいばいお姉ちゃん!」

「…嗚呼」


大きく手を振る少年に、私も手を振った。少年のまだ小さな背中を見つめ、私は呟いた。
"また明日"
この出逢いは、私の運命を変えたのだろうか。それはもう、きっと誰にも分からない。




暗闇から
掬い上げたのは

(私なのか、それともあの少年なのか)

──────────

紅 夜須臥。





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