嘘つきな女と秘密主義の男


「………、」


ホテルの一室で、昨晩私は彼女に愛の言葉を囁いて、そういう行為をして。バスルームから出た私は、大きなダブルベッドですやすや眠る彼女の傍らに腰掛けた。
朝日がカーテンの隙間から射し込む殺風景なその部屋は、数少ない家具達がモノトーンで統一されていて、あまり落ち着かない。


「……貴方は…私が他に好きな人が出来たと言えば泣くんですかね…」


どうすればいいのだろう、彼女にする秘め事はこれだけではないけれど、純粋な彼女を傷つけるのは、怖かった。


『…………和仁、』

「あ、嗚呼…おはようございます」


昨晩の行為で倦怠感の残る体を起こす彼女は、未だに眠そうに可愛らしく目を擦っていた。そんな彼女を見つめて、聞かれていない、そう思って変に安堵した。


──────────


ホテルから一足先に出た彼女は、ホテルの前の道端で雲一つない真っ青な空をぼーっと眺めていた。私を見つけると、ぱたぱたと駆け寄ってくる彼女は愛らしいと思った。


『和仁、あのね、私』

「ん、どうかしましたか?」


彼女は少し考え込む仕草をした後、私を見て悲しく微笑んだ。そんな彼女に私は目を見開いた。


『………私、和仁なんて嫌いよ。……初めから嫌いだったの、』

「…は、い?いきなり何を…」


いきなりそんな事を言い出す彼女に動揺を隠せない私は、彼女の意図を読みとる事なんて出来なかった。


『……でも、でもね、』

「……?」

『… … ………』


そう言って笑った彼女の、分かり易くて優しい嘘を私は黙って聞く事しか出来なかった。

¨愛してたの、大嫌いな貴方を¨




女の嘘と男の秘密

(彼女は嘘を吐いて、彼の前から姿を消しました)

──────────

藤波 和仁。





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