あの日、全てを失った


辺り一面が焼け野原で、人一人いないこの砂漠のような更地を僕は必死に駆けていた。


『は…ッ』


あの地獄の家から、あの悪魔のような人間達から逃げる為に。
毎日毎日まいにちまいにち毎日毎日まいにちまいにち
この異質な瞳を持つ僕は悪魔の子と言われた、不吉を呼ぶ死神だと言われた。家族でさえもその瞳を恐れた。
皆、僕が怖かった。


『あんたなんか、生まなきゃよかった………いいえ、どうしてあんたなんかが生まれてきたのよ!!』


日に日に増す暴力。


『見ろ、悪魔の子供だ!悪魔が来たぞー皆逃げろ!』


街を歩く度に聞こえる罵声。


『お前は私の息子なんかじゃない』


否定された自分。


『あんたさえいなけりゃ…アタシ達は幸せに暮らせてこれたのよ!!』


否定された僕の¨すべて¨
どうして誰も分かってくれない?どうして皆僕を信じてくれない?
幼かった僕は、誰か、と叫ぶしかなかった。助けて、と喚くしか出来なかった。


──────


「っ…!」


目障りなアラームの音で目が覚めた。寝覚めは最悪、夢見も悪い。
今更あんな昔の事を思い出して、僕は一体どうしたのだろうか。
額には冷や汗が伝う。未だに僕は、あの地獄から抜け出せていないのだと改めて感じさせられる。


「っ……」


ベッドから降り、僕はテーブルの上のワインに手を伸ばす。そういえば昨日は飲まなかったな、そう思いながら僕はグラスにそれを注いだ。赤いソレはまるで血を見ているようで。あの地獄を容易に連想させていた。


「……あぁ、おはようシャティ」

『ニャー』


過去の良くない思い出を、ワイングラスを見つめながら考えていた僕の足に、一匹の猫がすり寄ってきた。
僕の愛猫のシャティ、血統書付きのロシアンブルーで瞳は金と赤。
ただ猫のくせに僕からは決して離れようとはしなかった。
撫でてやると喉を鳴らして気持ちよさそうに大きな瞳を瞑るシャティを見つめて、僕は頬を綻ばる。
シャティは、君だけは、ずっと僕の側に居てくれた。

それは、永遠にも似た刹那。僕はこの世界で安息の時を過ごした。
人よりも、猫の方が良い…、無駄な事は話さないし、何より可愛い。そして何より、こんな僕を信頼してくれているのだから。
シャティ、出来るだけ、僕に悪夢なんかを見せないで。




ナイトメア

(あの地獄から救ってくれたのは僕と同じ瞳を持った君)

─────────

小野 俊介。





prev turn next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -