それは恐ろしいほどリアルな夢


「なんて美しい子だ」

「この子は高く売れる」

「瞳の色も珍しいな」


朦朧とする頭を漸く起動させ瞼を持ち上げた薄い緑色の瞳を持った少年の周りを、顔を隠した大人たちが取り囲んでいる。皆口々に何か言っているけど、耳鳴りが酷くて聞き取れない。
ぼんやりと少年を照らす豆電球を見つめ、恐らく拘束されているだろう体を少し強張らせた。多分それが、恐ろしくて何も言えなかった少年の小さな抵抗だったのだろう。




「さあ坊や、起きなさい」


いつの間にか気を失っていた少年が次に目を覚ましたのは、女性特有の柔らかく高い声が耳の鼓膜を刺激した時だった。


「……だ、れ」


段々と少年の体に甦ってくる、全身を引き裂かれるような痛みに頭がついていけない。


「綺麗な子ね、高かったでしょう?」

「ええ。ですが、値段の割には上級…いえ、最上級品ですよ」

「そうね…ふふ、良い買い物したわ」


少年の頭の上を飛び交う、今の少年には理解出来ない会話に耳を傾けようにも、異様なまでの喉の乾きで体が上手く酸素を脳に運べないでいる。
ふと少年の視界に入った女性を見つめると、少年と目が合った彼女はにこりと微笑んだ。


「大丈夫よ、貴方は大切な研究材料だもの。手荒に扱ったりしないわ」

「そろそろ時間ですジム。シュリッツァ博士に交代を」

「分かったわ」


そんな会話をしている、優しそうな彼女と彼女の付人らしき男。そんな彼らが会話を終え、部屋の暗い扉に向かい歩き出した。
彼女がドアノブに手を伸ばした時、あちら側から扉が開く。入ってきた白衣を着た年配の男は、シュリッツァと呼ばれている。手には何かを象った焼き印が握られていた。


「宜しくね博士。あの坊やは顔が綺麗だから、瞳を取り出すときは慎重にお願いよ」

「分かっています。1日の薬物投与数も5回程度に抑える予定ですから」

「それがいいわ。悪魔はこの世界でも数億分の一程度の人口なのよ。大金を叩いてやっと手に入れたんだから、出来るだけ優しくしてあげて」

「睡眠時間も4時間は与えるつもりですよ。死ぬことは無いでしょう」


耳に飛び込んでくる言葉に、絶句する。長い地獄のような会話を終えると、シュリッツァは寝かされて拘束されている少年の横に立った。彼の目は恐ろしく冷たい。
少年は全身に電気が走ったような恐怖に襲われた。


「始めるぞ」

「はい」


シュリッツァを取り囲む助手らしき人物が、彼に真っ赤に熱せられた焼き印を手渡す。


「な、にする、の」

「証だ。我々の物だという証を君に刻むんだ」

「やめ、て、な、んで」

「君に恨みはない。ただ、君の存在そのものが我々科学者としての興味をそそる」

「い、やだ」

「君は特別な存在なんだ、ヴァロッディ君。……やれ」

「…っうぁ゙あああ゙あぁあ!!」


強烈な痛みが全身を駆け巡る。頭の中の思考回路が一気にショートした。

胸に押された焼き印は、十字架に薔薇が巻き付いた特殊な紋章だ。薔薇の一部には、古代イェルザ語で"光"を意味する"ライヤー"の文字が刻まれている。

最後に少年が見たのは、シュリッツァとその助手たちが着た真っ白な白衣と、おどろおどろしい暗い部屋の壁だけだった。




黒と白の夢魔

(決して記憶にはない、もう一人の僕の夢を見た)




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