不器用すぎる自分に嫌気が差す


「ん…かいり…」

「……」


俺の隣で幸せそうに眠る俺の恋人、穂波。俺なんかの夢を見てくれているのだと思うと泣きそうなくらい嬉しい。俺が優しく頬を撫でてやると、穂波は小さく声を漏らしてまた気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てる。
ああ、こんなにも愛しい。


「穂波…」

「う、ん……っ…」

「…っ!」


不意に寝返りを打った穂波の長い髪で見え隠れする、青く鬱血した肌に俺は息が止まりそうになった。
初めて穂波に会った時、彼のこの綺麗な肌にどんなに触れたいと思っただろう。
それが今では俺のせいで、長袖しか着なくなった穂波。いつも俺が連れていた女達が羨む程美しかった彼は、いつからくすんでしまったのだろう。


「…穂波…ごめん、ごめん……」


くすんでしまったのは、俺のせいだ。穂波が男と歩いているのを見て、その男を殺してしまいたい程嫉妬した。穂波は俺が怒っているのをそっちのけで、いつも友達だというその男を庇う。
それはきっと当たり前のことかも知れない。だけど俺の嫉妬は、次に必ず穂波に刃を向ける。


「穂波…」

「ん……?海、理……?」

「…おはよう」

「……うん、おはようっ」


いつも俺のせいでボロボロになっていく穂波を見て、次はやめようと思うんだ。
ぼんやり考えながら、俺は穂波に何ヵ月ぶりかの朝の挨拶をした。そう言えば、穂波が起きるまで一緒にいたのはいつ以来だろう。そんな薄情な俺が挨拶をしたところで何が変わるんだと周りは言うだろう。でも穂波は、嬉しそうに俺に挨拶を返した。
それを見て、俺は穂波がいるから生きていけるのだと痛感する。


「今日はデートでもしようか、穂波」

「えっ?」

「…嫌か?」

「う、ううん…っ!凄く嬉しい!」

「良かった」


ベッドの中ではしゃぐ穂波を抱き締めて、俺は穂波にキスをする。急で驚いたのか、穂波は顔を真っ赤にして俯いた。その仕草があまりにも可愛くて、彼が美しい月で今まで付き合ってきた女達がスッポンのようだと思う俺はバカだろうか。


「じゃあ、早く朝御飯食べちゃおうっ」

「んーん、朝飯は外で食べよう。早く支度して」

「っうん…!」


いそいそと風呂場に向かう穂波を見て、脳裏に過った疑問。女なんかよりあんなに可愛いのに、どうして穂波は女じゃないんだ?
奥に消えていった穂波の背中を見送った俺は、慌ててその疑問を振り払った。何を考えてるんだ俺は、穂波が男だっていいじゃないか。


「今は穂波のために、楽しまないと」


呟いた俺の耳に、穂波が楽しそうに歌っていた鼻唄がシャワーの音に段階的に掻き消されながら聞こえた。




鶸の鳴く朝

(その日一緒に出掛けた穂波は、いつも以上に美しかった)



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