私はお前を愛していた
「ルシファー」
「……」
「こんなこと続けててもなぁ…ッ…アイツは…っララは還ってなんて来ねぇんだよ!」
薄暗い地下に響いた、男の懇願するような叫びに耳鳴りを覚えたのは、ルシファーと呼ばれたもう一人の男。
もう止めてくれ
そう言ってルシファーにすがり付く男の目からは、ボロボロと涙が溢れている。
しかしルシファーはその男に見向きもせず、黙々と『今自分がやるべき仕事』をこなしていた。
「ルシファー!死んだヤツは戻って来ねぇ!!んなことテメェがよく解ってんだろ!?」
「……」
「いいか!ララはもう死んだんだ!いねぇんだよ!!だから……」
もう、止めてくれ
そう言いながら踞り嗚咽を漏らす男を、色の無い目で見据えていたルシファーはぽつり、と呟く。
「違う」
「……ルシファー…」
「ララは死んでなどいない。今はただ、疲れて眠っているだけだ。……きっともうすぐ目覚める、その時旁らに私がいてやらないでどうする?……そうだろう、ララ」
「……っ」
ルシファーが愛しそうに見つめたその視線の先にいたのは、男とも女ともとれる人間のようなものが横たわっていた。
陶器のように白く透明な肌。まるで王冠を戴いたような光輝く金糸の髪。長く均等な睫毛。人形のように整った目鼻立ち。柔らかそうな淡い桜色の唇。唇の右下にある黒子。
そんな、息を飲むほど美しい容姿のララはピクリとも動かなかった。まるで目覚めることを拒んでいるかのように、頑なに目蓋を持ち上げようとはしなかった。
それは何故?
「ララ……私の愛しいララ…」
「ルシファー…」
ララの流れるような金髪を愛しそうに漉き、優しく寄り添うルシファーを見た男は、悔しさで拳を握り締めた。
痛々しい彼の姿を見て、無力な自分に腹が立ったのだ。そんな男を知ってか知らずか、ルシファーはララの顔を見つめたまま空気を震わせた。
「………ヴァン、暫くララと二人にしてくれないか」
「………っ解った」
躊躇いながらもすぐに出ていったヴァンの姿を見送る。
すぐに愛しいララに目線を戻せば、いつの間にかルシファーの瞳からは大粒の涙が零れていた。
「…ララ……私を独りになどしないと、そう言っただろう……」
「愛している」
「ララ、お願いだから目を覚ませ……覚ましてくれ…」
ルシファー
魔王である彼がこの世で唯一愛した人間の青年、ララ。
その青年は、神にさえ疎まれ楽園から追放された彼が見つけた、唯一無二の希望の光。
「ララ……」
『大好きですよ、ルシファー』
光の目覚めは、まだ遠い。
独りぼっちの愛し方
(お前だけが、私の世界の全てだった)
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