観月家の日常風景


ピピピピピ……


「う、ん…っ」


耳障りなアラーム音を消せば、また僕の1日が始まる。朝の5時、カーテンを開ければまだ日の光がほんの少し顔を見せるくらいの薄暗い町が浮かび上がった。気合いを入れる為にパンパンと顔を叩いて、僕はのんびりと階段を降りていく。
母親のいない観月家の家事担当はいつも僕で、毎朝5時に起きては朝食を作るのが日課だ。料理をするのは好きだから、特に苦でもない。
ふと、キッチンから物音が聞こえて早足で向かえば朝にはなかなか会えない珍しいお客さんがいた。


「あ、おはようお兄ちゃん。早いんだね」

「…ああ…昨日親父の酒盛りに付き合わされてまともに寝られなかったんだよ」

「あはは、お父さんも今日はお店休みだもんね」

「お陰であの酒豪に夜中の一時まで飲まされた…」

「でも楽しそうだったよ?たまには相手したげないと、お父さんも拗ねちゃうって」


そう言って兄の棗(ナツメ)に笑いかけながら、僕は昨日買っておいた冷凍食品やらを取り出した。弟の允(マコト)と自分の弁当を作るためだ。
以前は父の倫緋(ミチヒ)が作ってくれていたけど、僕が中学に上がった頃から慣れておきなさいという理由で家事担当になった。実の所を言うとただ面倒だったからという事実は今でも父の胸の中に仕舞われている。
対面式キッチンで手際良く作業をしてながら不意にお兄ちゃんの方を見れば、机に突っ伏して完全に伸びていた。慌てた僕は取り敢えず声を掛ける。


「お、お兄ちゃん大丈夫?」

「………大丈夫……」

「えと、何か飲む?二日酔いだと思うからお水がいいよね」

「悪い…貰う……」


お酒は強い方だと言っていた兄のこんな姿に少々戸惑いながらも、僕は作業を中断してお水を差し出す。
友達と飲んできたときも全く酔ってなかった兄を潰れるまで酒に付き合わせた父は凄いな、と少しズレた所で感心していた僕にお兄ちゃんは気付かなかった。


「………気持ち悪い…吐きそう…」

「ちょっ!吐くならトイレ行ってね!?」

「うっ」

「お兄ちゃん早く!!」


ドタバタと慌ただしくトイレに駆け込んだ兄の背中を見送って、今日トイレ使えるかな、と思いながら僕は作業を再開した。



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