明日は晴れるかな


楽しかったと思う




「蛍っち、俺らもとうとう卒業だねぇ」

「うん」

「あっという間だったな」

「そだね…」


何だか寂しくなってしゅんとする僕の頭をポンポンと撫でたのは、鈴野 直也(スズノ ナオヤ)
直也は運動神経抜群でいつも優しい皆の人気者。地味で、運動の出来ない僕の憧れだった。どうして僕みたいなのと一緒にいるのかは結局最後まで理解出来なかったけど。
でも中学三年間、何をしていた時でも一緒だった親友のふとした優しさに、僕の心臓はドキドキと暴れ出すんだ。


「っ…!」

「蛍っちどうかした?」

「な、何でもないっ」

「あはは、ムキになってかーわいー!」

「わっ」


クラスで堂々と僕に抱き付く直也に、僕の心臓はもう壊れそうだ。僕が女だったら、直也のこの態度は気があるんだと取ってもいいんだろうけど、でも僕は、男だから。違うんだよ、ね。


「マジさ、高校もお前と同じ所受ければ良かった」

「え?」

「でも蛍っち頭いいもんね。俺なんかじゃ足下にも及ばないって感じー」

「そんなこと、ないよ」


僕は本音を隠しながら、楽しそうに笑う。
僕はその時苦しかった。だって本気で行きたかったら死に物狂いで努力するよ。直也、僕知ってるよ。直也が選んだ高校、直也の片思いの女の子が選んだ高校だもんね。


「直也」

「うん?」

「高校行っても、友達でいてくれる?」


社交辞令でも良かった。もしかしたら明日で終わってしまう関係かも知れないから、安心したくて。
僕はyesの言葉を待った。


「いきなりどうしたの?当たり前じゃん、ずっと友達だよ蛍」

「…うん」


今はこんな上辺だけの会話も何故か嬉しく思えた。




「卒業おめでとう」


小学校の卒業式って泣いた記憶がないけれど、中学の時は違うようだ。先生の最後の話とか、女子は号泣。男子も涙脆い人や貰い泣きした人やらで結構泣いていた。勿論僕もだけど。


「今まで本当にありがとな。高校に行ってもお前ら、中学の思い出忘れないで頑張れよ。特に俺を忘れたら承知しねーぞコラ」

「泣きながらギャグかまされても笑えねーから先生…!」

「うっせー俺は泣いてねーこれは鼻水なんだ!」

「むっちゃ目から出とるがな」

「先生今になって強がっても仕方ないわよ」


皆で、泣きながら笑った。若いのにいつでも厳しくて面白かった先生の泣き顔なんて貴重だ。しかし泣いていても先生の笑いのセンスは光っていたから、多分これからも僕達の自慢の担任だろう。




「蛍ー」

「あ、鞠ちゃん」

「おもろかったなあ、先生」

「うん、楽しかった」


帰り道、家が近所で僕と同じ男子校に入学する岡田 鞠(おかだまり)と並んで歩く。
彼は関西出身らしく、普段から流暢な関西弁を話す。先程先生のボケにツッコミを入れたのも彼だ。目が赤くなっていない所を見ると、彼は泣かなかったらしい。


「高校、同じクラスになるとええな」

「うん。二人だけだもんね、同じ中学出身は」

「せやし、蛍頭ええやん。俺また宿題手伝うて貰お思てんねん」

「あはは、数学以外ならいいよ」

「数学俺も苦手や…何が浮カゃ、んなもん将来生活する上で必要あらへんがな」

「ホントだよ!立方体やら長方体やらの体積まではわかるけど、三角錐の体積求めないよね普通」

「あはは、ホンマな!男が理数系得意て誰が言うたんや」


二人でからっからに晴れた空の下を歩いたのを、君が忘れても僕はきっと忘れない。



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