全身が鉛のように重かった。

瞼を開けようとしても開けることができなかった。

風が冷たいし、寝心地は悪いし、身体の隅々がじくじくと痛いし、服が全体的にぐちょりとして湿っている。

なぜこんな状態なのだろう?最悪の寝起きと言わざるを得ない。

瞼の向こうは仄かに明るいから、きっと朝だ。

朝が来たなら起きなければ。

そう思って、もっと休んでいたいと悲鳴をあげる身体に鞭を打った。

両腕を動かして、びくりと震える。

――左側の、前腕周辺に激痛が走って、とても、とっても痛い。

もしかしたら折れているかもしれない。

痛い。辛い。なぜこんなことになっているのだろう。目は開かないし、吹く風の冷気が濡れた服を凍えさせて、散々だ。

意識を手放しでもして、いっそのこと二度寝でもしてしまいたかった。

ああ……でもそれは、止めておこうと思った。

この痛みを押し殺してでも上半身を起こして、この目を無理やりにでも開けて、朝日を拝んでやろう。

だって、私は――――……




まだ動かしやすい右腕を両目にもっていき、寒さで悴んだ指が瞼に触れる。
睫毛に何かがびっしりとくっついていて、開閉を妨害していたようだった。それを払って、ゆっくりと目をあけていく。
何時の間にか陽の光が強まっていた。
光の刺激と、妨害の何かが目に入ってしまわぬようにゆっくりと開いていく。

やっとの思いで開ききった視界に飛び込んできたものは、広大な木々だった。


「……ここはどこだ?」


てんで身に覚えがない、見た事がない風景で、眉を顰めた。
視線を下にずらし、思わずため息を吐く。
身体中が泥まみれだった。
水を多分に含んだ泥は服どころか全身を覆い、顔にまでびっしり。目をあけられなかったのは、少しだけ乾いて固くなった泥のせいというわけか。
寝る前の私はいったい何をしていたんだ?何も思い出せない。ああ、寒い寒い、痛い、全身が痛むし、左腕がとくに酷い。青紫に腫れて気味が悪い。
私はどうしてここにいる?
何も記憶が残っていない。深酒をして吹っ飛んでいるのかもしれないが、酒を飲んだ記憶すら存在しないのは可笑しい。
私はいったい……

あれ?

……あっ。


なんということだろう!

そうだ。
そもそもの話、この場所が分からない以前の問題だった。


「私は誰だろうか?」


自分が何者なのかすら今の私には分からないこと。
その事実にようやく気が付いた。





                  嵐の後に凪が来る。
Depois da tempestade sempre vem a bonança.




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