事務所の設置された電話が鳴った。プロデューサーさん専用の軽快なBGMで、お母ちゃんは只今欠席中だったので一番近くにいた私が出た。仕事の依頼とかなら他の人に任せちゃうけど、今回の相手はつんぽさんだからね。

「はいもしもし、寺門です」
『お通殿でござるか、マネージャー殿は今周囲にいないということでよろしいか?』
「そうなんです。もう少しで戻ってくると思うんですけど」
『では言伝をお願いするでござる。"怪我を負ってしまい業務に支障が出たのでCDの作詞作曲の件は延期にしてほしい、来年になったら本気出すからちょっと待ってでござる"……と』
「え!?プロデューサーさんが怪我をされただなんて、大丈夫ですか?」
『三味線を弾いてたら銀髪パーマの男にヘリコプターに叩きつけられて、そのままヘリコプターごと地面に落とされ利き腕を突き指……いや、骨折を少々。拙者の復活まで今暫く待っていてほしいでござるよ』

電話越しなのを良い事に、受話器から口を遠ざけておでこに手を当てながら溜息を吐く。今回のプロデューサーさんのこと、お話で見覚えがある。シリアス長編の話だったはずだ。
(知らないふり、知らないふりっと)
受話器をすぐ耳に当て直して、さっきと同じように心配をしているトーンで話を続けた。

「吃驚しました、そんなことあるんですね。プロデューサーさんが御怪我をしたことはしっかり母に伝えておきます。御身体を大事にして休んでください」
『うむ、頼んだでござる』
「……あの、プロデューサーさん」
『?どうされたお通殿』

言うか言うまいか迷ったが、物語の敵役とはいえプロデューサーさんは私を拾ってくれた恩のあるプロデューサーで、とてもお世話になっている人だ。言うべきだろうと口を開ける。

「ヘリコプターで落とされたって言ってましたよね。骨折程度で済んで良かったです。プロデューサーさんが生きていて本当に嬉しい……」
『……お通殿』
「プロデューサーさんに世話になった分はまだまだ返せていないので、どうぞこれからもよろしくお願いしまスリーピーホロウ!」
『ああ……こちらこそでござるよ、お通殿ストラダムス』

相手との通話が切れ、受話器を元に戻した。
プロデューサーさんが怪我してるってことは万事屋一家もそうだよねぇ……菓子折りでも持っていきたいけど、不自然だよなぁ。



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