「うー!」
「おはよう、炭治郎」

目を覚ますといの一番に炭治郎と目があった。私が起きるのを今か今かと待っていたらしい。身体を起こしながら朝の挨拶をすると、炭治郎は元気よく片手をあげて目を細めた。口枷で口元がよく見えないが、きっと笑っているのだろう。

「不便ではありませんか?」
「?」
「そうでないならいいのですがね」

弟が口枷をつけている、というのは見ていて気持ちのいいものではない。本人が気にしていないなら私が口を出すべきことではないのだが……

「むー……」
「ああいえ、私は元気ですよ」
「う゛ぅ」
「ほんとほんと、私、嘘、つかない」
「……むぅ」

口枷で悩む私に心配そうに擦り寄ってきた炭治郎の肩を叩き、にっこりと笑みを作った。元気ですよー、嘘はついてないですよー。ただちょっと悩んでるだけです。

「まったく炭治郎、もっと兄を信じなさい」
「んー」

疑わしげに私を見つめる炭治郎は、二年前と何も変わらない。
それが嬉しくもあり、少しばかり悲しくなる。何も変わらないように見えるのに、昔とは確実に変わっていることが。

「さあさあ、太陽が顔を出す前に準備体操でもしましょうか」
「うっ!」
「ええ、柔軟は大事です。身体がばっきぼきだと下手すりゃ死にますからね」

ぐにーんと身体を伸ばす動作をしながら私を見る炭治郎に頷く。朝の準備体操は竈門家の恒例行事。これをしてから朝の支度を行うのだ。
そろそろ刀が届いても良い頃だと思うのだが、まだ日輪刀はやってこない。さて、今日はどんな風に弟と一日を過ごそうか。



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