夢の続きでも見ているのだろうか。意識が落ちる直前に見えたあの、砂糖の塊のような夢を。

「おはようございます、エイリョウ。何をしているのですか」
「……いやァ、今の内に身体を慣らしておこうかと」

頬を引っ張っていた途中で替えの包帯を持って病室に入ってきたナマエの無音っぷりといったら、裏社会でも通用するほど気配がない。お蔭で変顔を晒してしまった。否応なく上昇される血液の存在をひしひしと感じながら、なんてことない風を装う。

「なるほど。エイリョウのような実力者ともなると、頬辺のケアも怠らないのですね」

感心したように頷いて、さっきまであたしがやっていたことを真似てナマエは頬を伸ばす。……ンな素直に受けとんなよ。微妙な気持ちで眺めていたが、こうしているとまるで昔日に戻ったようだ。
(意地張ってヘリクツぬかした言葉全部正面から受け止めちまうんだもんな……)
この人は、変わらない。
そして変わっていないのはきっと、あたしも同じだ。
ナマエを前にするとぎこちなさが拭えない。
あの夏の日、蒸し暑い日差しの下で足繁く通った悪ガキのまま。なんの成長もない。

「さあ、身体を起こして。まずは何時も通り包帯の巻き替えをしましょう」

ナマエの冷たい指先があたしの身体に触れ、汚れた包帯を取り外しにかかる。ああやはり、夢なんじゃないのか。良い匂いのする木綿で包むみたいな現実なんてあるはずない。
(いや、……そうだな。どっちでも、いいか)
夢みたいな現実でも。現実みたいな夢でも。
ナマエがいるのなら、どちらでも構いやしないのだから。

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