「お前を最終選別に行かせるつもりはなかった」

そういうことなのだろうと薄々勘付いてはいました。

「もう子供が死ぬのを見たくなかった」

箪笥に仕舞われていた服も、ご飯を食べる茶碗と箸も、布団の一式も。昔に取った弟子たちの遺品なのだと気付いていました。

「お前にあの岩は斬れないと思っていたのだが……」

近くに寄ると全長が把握出来なくなるほどの大きさの岩、どうやって見つけたんですか。あそこに元々あったものなんですか。余所から持ってきでもしたんですか。馬鹿なんですか。

「よく頑張った」

はい、ガチのマジで大変でした。頑張りました。

「雪成。お前は凄い子だ……」

剣だこがいっぱいで皺塗れな鱗滝さんの温かい手が私の頭を撫で、強く抱きしめた。目頭が熱くなる感覚を受けて、鱗滝さんの背中に手を回す。

「"最終選別"、必ず生きて戻れ。儂も弟も此処で待っている」

とても心の籠った痛切な想いが届く。きっと、弟子を鍛え終えて最終選別に向かわせることを決めた時、この台詞を常に言ってきたのだと思った。
其れほどまで最終選別は辛く厳しく、鱗滝さんの許に戻ってきた弟子は少ないのであろうことも、痛々しい程伝わってくる。

「必ず此処に帰ると、魂に誓います」

皆が待っている。
炭治郎、鱗滝さん、真菰、錆兎、会ったことのない他の弟子たち。
私が無事最終選別を終えて戻ることを皆が願っていくれているのだから、絶対に成し遂げよう。

と決意を新たにしたのは良いのだが、最終選別は一定以上の人数が集まらないと開催が決定しないらしく、今はまだ日程が決まっていないようだ。しかし鬼殺隊も人員不足であり、一定人数以上になるまでずっと待っているわけにもいかないようでどんなに人数が少なくとも年に一度は執り行う。なので最終選別の開催日まで私の修行は続くことになる。

ということで。

「昨日ぶりですね、錆兎!リベンジしに来ましたよ!」

ぶった斬った大岩の前に立ち、周囲に向けて声を張り上げる。

「最終選別まで期間が空くので戦いましょうー!」
「お面を斬ってはい終わりとか無いですよー!」
「木刀と真剣どちらでも構いませんよー!持ってきましたのでー!」

静寂が辺りを包んだ。

「もしかして私に勝てないからって避けてますか?」
「さーびーとー!」
「男の癖にビビってるんですか錆兎ぉー!!」
「良い子だからでてきなさーい!」
「鈍くて!弱くて!未熟な!錆兎くーん!!!」


「うるさい」

あ、やっと出た。初めて会った時と同じく大岩の上から再登場の錆兎を見上げる。

「男が喚くな、見苦しい。くんと呼ぶな馬鹿。うるさいぞ」

うるさいって二回言いましたよ此奴。

「錆兎、まさかあれでおしまいのつもりじゃないですよね」
「……」
「今まで散々私を木刀で嬲っておいて、自分は狐の面を斬られたら負け判定とかほんとマジふざけんなって奴ですよ」
「……」
「ていうかなに昨日の今日でお面復活してるんですか、負けはなかった認定されてますかもしかして」

しれっと錆兎のお面が綺麗に修復されている件について。ファック。

「まあいいです、許してあげましょう」
「何を許されたんだ俺は」
「お面リバースの件です」
「りばぁ……いい加減外国の言葉を混ぜるのは止めろ、分かり辛い」
「フィーリングで受け取ってください」
「……もういい」

重い溜息を吐いた錆兎は右手で柄を手にしながら大岩を飛んで、私の背後に降りた。

「今日お前が負ければ外来語を止める、じゃあ行くぞ」

振り返りながらニヤッと口角を上げ、木刀を横に放り投げて此方も抜刀した。

「ボコボコにしてやりますよ、覚悟!」

颯爽と打ち込みあい、戦い始めた私たちの姿を、真菰は微笑みながら見守ってくれていた。
修行がひと段落ついたのだからもう二度と顔を合わさない可能性も十二分にあったのだが、私は今日もとても人の好いこの兄姉弟子たちの胸を借りることが出来るのだ。


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