『○月△日 曇り
 鱗滝さんの教えを忘れぬように日々の出来事を記しておくことにした。
 これなら炭治郎が次目を覚ました時、こんなことがあったこんなことがあったと沢山の事を伝えられる。
 当初、日記は反古紙を利用しようと思っていた。しかし鱗滝さんに紙を貰いたいと言ったところ、意図を聞かれたので答えたらこの手記を頂けた。明らかな新品だ。買いに行かれる様子もなく直ぐ手渡されたことから、もしや鱗滝さんも日記を書いていたりするんだろうか?
 身の回りの準備をしていたら今日一日が終わってしまった。修行は明日からになる。起きたのが昼過ぎなので夜に眠れるか不安だ。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『○月×日 快晴
 早速修行が始まる。朝早くに起床し、山を登ってから山を下る。行きはよいよい帰りは恐いとはよく言ったものだ、下りる際は神経を尖らせねばならない。
 罠の種類と数は一回目と大差ない。前回と同じ個所の罠こそ回避出来たが、前回回避出来た筈の罠に引っかかってしまった。未熟。
 下山してからは筋力や体力、肺呼吸を鍛える訓練。詳しい内容は後ろの頁に書く。別けた方が修行のやり方を見返す時に分かりやすい。
 桶に水を張って息を止めるのは、冬の時期だと寒い。油断すると氷になる。今日はまだよかった。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『○月◇日 晴れ
 山下りと訓練。基礎的な能力を鍛える為なので当分訓練内容は変わらないだろう。
 疲れてへとへとになっているとはいえ、鱗滝さんに食事を作ってもらうのが申し訳ない。早く体力をつけて自分で用意出来るようになろう。
 炭治郎は本日も眠っている。頬を限界まで引っ張ったら顔を顰めていた。』

『○月△日 曇り→晴れ
 朝一に紙を足に巻きつけた鴉がやってきた。鱗滝さん曰く鎹鴉と言うようだ。鬼殺隊の伝令係らしい。
 人の言葉を話すだけなら鸚鵡がいるが、鎹鴉は会話が出来る。鬼の主食は人間なので動物は殆ど手を出されないらしい。確かにそれなら伝達に適任だ。
 寝起きの調子が良く、山下りと訓練に打ち込めた。罠の威力が上がっていたが、張り切って挑んだからか今までで一番の出来だ。
 炭治郎は本日も眠っている。

 追記
 鬼殺隊についての情報をたかが日記に書き込むのは如何なものだろうかと思ったので鱗滝さんに質問したが、家から持ち出さなければ問題ないとのことだ。一般人は目的地の経由で通り過ぎるだけで、それ以外で狭霧山に訪れる人はほぼ鬼殺隊の関係者だからと。下っ端どころかまだ入隊すら出来ていないのに情報を外部に漏らすのは不味いと心配していたので安堵。』

『○月□日 雨
 ぱらぱらと降っている中での山下りと訓練。
 この天気だと索敵に鼻が使えない。地面を滑りまくって罠に引っかかりまくった。視力と気配で周辺の索敵をしたところ、矢張り普段使いの鼻には敵わない。こちらの方が便利だからついつい使いすぎてしまう。反省。
 普段以上に服が汚れてしまったので手洗いに悪戦苦闘していると鱗滝さんが手伝ってくれた。生乾きで臭う。私も鱗滝さんも鼻がいいので、こういった日常上の些細な疲労は避けたい。
 炭治郎は本日も眠っている。布団を重ね掛けしておいたが、寒くはないだろうか。』

『△月○日 晴れ→曇り
 山下りが終わり訓練をしていると、鱗滝さんが手配してくれた医者が来てくれた。
 直ぐに炭治郎を診てもらったが異常はないとのこと。何度も確認して貰ったが、そう診断するしかないようだ。炭治郎は素人目から見てもただ寝ている以外のなんでもないけれど、明らかに異常だ。
 ちょっと目を離している間に死んでしまうのではないかと不安になる。試しに鼻を抓んだら嫌そうに顔を背けられたので今日は大丈夫。偶にだが寝返りもうっているので、鬼の丈夫さもあって床ずれの心配はない。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『△月△日 曇り時々晴れ
 山下りと訓練。狭霧山の高度にも慣れた。動きやすくなった身体を見抜いている鱗滝さんは罠の難易度をどんどん上げていく。刃物を使われるのは最早当たり前になってきた。
 しかしその分私の身体能力も向上していくのを実感している。罠の変動があると分かり辛いが、着実に山下りの時間が短くなっているのだ。もっと頑張ろう。
 炭治郎は本日も眠っている。身体を拭いている途中、袖を掴まれた。嬉しかった。』

『△月□日 曇り?霧?
 鱗滝さんが顔を洗っていたので偶々素顔が見えた。鱗滝さんらしい、とても優しい顔だった。何故お面を被ったままなのか?鬼殺隊の面々は素顔を隠す風習でもあるのかと思ったが、私が最初に出会った鬼狩りの人はお面をしていなかった。
 山下りと訓練。山下りをしていたら栗鼠を発見した。まだ冬眠している時期の筈だが……ちゃんと巣に戻れるだろうかとちょっと心配。
 炭治郎は本日も眠っている。髪が伸びてきているが切った方がいいだろうか?』

『△月◎日 雨
 雪辱を果たす。気合を入れて山下りに挑んだ。結果、晴れの日ほどは流石に無理だったが前回よりも大幅に時間が上がった。視力が磨かれているのもあるが、視野そのものが広まっている気がする。
 服の汚れもましになっている。意気揚々と洗濯した。
 炭治郎は本日も眠っている。鱗滝さんから髪留めを貰ったので、炭治郎の髪を結った。』

『△月◇日 晴れ時々曇り、偶に霧
 今日から刀を所持した状態で山下りをすることになった。これがあるのとないとじゃ罠に引っかかる確率が大幅に異なる。久々に昼過ぎになっても山下りを終わらせられなかった。
 武器の一つや二つ持っているだけでこうも違う。一刻も早く慣れるべく、日常生活で刀を持ち歩くことにする。
 もし刀を破損させたら骨を折ると言われた。武器の作成もただではないのだろうし、鬼との戦闘中に折れたりしたらそれこそ命に関わる。気を付けよう。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『□月◎日 快晴
 山下りと訓練。帯刀状態でも罠の回避が出来るようになってきた。だが私の難敵は雨だ、雨の日に成功してこそである。
 家に戻ったら、家の周辺にむっとする臭いが残っていた。鱗滝さんの天狗の面が色褪せてきたので、塗り直したようだ。思い返せば確かに真っ赤な天狗が薄みがかっていた気もする、毎日見ているから気付かなかった。これはこれで味があると思うが……
 手作りの一点ものらしく、その日はずっと鱗滝さんは素顔のままだった。物珍しさから眺めまくっていると注意されてしまう。残念。
 鱗滝さんの顔が好きだと褒めてみたら、その顔を鬼に馬鹿にされたことを話してくれた。だからこのお面で隠しているんだと。そんな敵の軽口を気にしているとは鱗滝さんも可愛いところがある。
 炭治郎は本日も眠っている。炭治郎も私と同じく鼻が良く、この臭いで目覚めないかと期待したが何も変わらない。』

『□月□日 曇り
 山下りと訓練。帯刀での山下りに慣れた矢先、素振りの訓練が追加された。基本一日千回。これまでは抜刀することを許されていなかったが、鞘を抜いた状態で素振りすることに。
 素振りの訓練は一番やり易く、簡単だった。
 しかしこのまま訓練を追加され続けたら鱗滝さんの食事の手伝いが出来ない。何処かしらを時間短縮しなければならない。やはり狙い目は素振りだろうか。
 炭治郎は本日も眠っている。小窓から入ってきた鳥が額に乗っかっていた。』

『□月◇日 晴れ→雨
 起床時は晴れていたが、ほんのりと雨の匂いがしていた。案の定途中から降り始める。ついに来た。覚悟して挑んだ山下りは、まあそこそこといったところか。次も頑張ろう。
 珍しく鱗滝さんに大きな寝癖がついていた。私は何も言わなかった。暫くして気付いたようで、私をちらっと見てきた。にこにこ笑ったら小突かれてしまう、地味に痛い。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『□月×日 小雨
 ここのところ雨が続いている。勢いはだいぶ弱まっているので明日は晴れそうだ。山下りの調子が良く、二回しかこけなかった。罠は一回、新記録である。
 鼻が利かないと罠の察知は視力に頼りがちになる。もっと気配を探れるようになろう。
 雨が降っていると訓練が室内になるから、些かやり辛い。雨の山下りは嬉しいが……洗濯物も生臭くなるし、てるてる坊主を作っておこう。
 今日はなんと、夕飯の手伝いが出来た。晴れの日でもやれるように精進だ。
 炭治郎は本日も眠っている。以前訪れた鳥が彼女を連れて再びやってきた。炭治郎の額が恋鳥との憩いの場にされている。』

『×月○日 快晴
 山下りと訓練。新しく受け身の訓練が追加された。私は真剣で鱗滝さんに立ち向かい、鱗滝さんは丸腰で応対する。ぼろ負けだった。
 鱗滝さんには往なされてばかりだが、この訓練は私の性に合っていると思う。我ながら直ぐ体勢を立て直せている。七転び八起きかもしれない。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『×月□日 晴れ→曇り
 山下りと訓練。新しく呼吸法と水の型というものを習った。正しい呼吸が出来ていなかったり腹に力が入っていないと腹をばんばん叩かれる。
 この呼吸法というのは鬼殺の剣士にとっての叩き台らしい。息止めの訓練をもうちょっと増やそう。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『×月◎日 霧
 周辺が完全に霧に覆われていた。家付近まで霧が濃く表れているのは流石に珍しい。教わった呼吸を意識しながら山下りをすると途端に疲れる。
 もしかするとだが、水の型というのは私には合っていないのかもしれない。鱗滝さんが実践してみせてくれた型を見ていると、その域に到達する自分の姿がどうにも想像できない。あくまで直感で思っただけだが今までそう感じたことはなかったので、少し不安。
 基本の流派は五種類あり、水の型はその内の一つ。他の流派を習おうにも鱗滝さんよりも良い先生に出会えるとは思えないし、まだまだ始めたばかりなのでこのまま続けようと思う。
 炭治郎は本日も眠っている。あの鳥たちはまた遊びに来た。炭治郎の上でご飯を食べるのは止めていただこう、木の実はともかく虫は止めよう。』

『×月◇日 晴れ
 山下りの後、滝に連れていかれるや否や水と一つになれと言われて紐無しバンジージャンプをすることになった。
 春の芽生えが見え始めてきたとはいえ未だに全っ然冬なのに滝修行。うっかりくたばれ爺と言うところだった。滝に打たれてから通常の訓練に入ったが身体ががちがち震えまくる。爺この野郎。
 呼吸法にも大分慣れてきた。四六時中やれる訓練だから、寝る直前まで行える。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『◎月□日 曇り→晴れ
 山下りと訓練。滝修行は夏限定にしてくれないだろうか?期間限定なら有難味が増す気がする。
 しかし水に浸りまくったお蔭で水の型を取れるようになってきたかもしれない。いやきっとそうだ。そう思わないとやっていられない。滝修行中はまだ呼吸を意識できない。努力。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『◎月×日 晴れ時々曇り
 山下りと訓練。悲しい事に滝修行にも慣れてきた。滝の上から定期的に木の枝など邪魔物が落ちてくるので、ぶつかると結構痛い。
 腹を叩かれる回数も軽減され、滅多に叩かれなくなった。油断はならない。
 炭治郎は本日も眠っている。恋鳥たちはもうすっかり常連になった。』

『◎月◎日 快晴
 山下りと訓練。今月は晴れがよく続いている。お蔭で滝修行もやり易い。
 狭霧山にやってきた当初と比べ肺器官が随分と発達したと思う、完全に山の高度に慣れきった。そろそろまた鱗滝さんの罠の難易度が急激に上がりそうだ。
 腹筋をしていたら、雲が見事なまでに星の形をしていたのを発見。思わず鱗滝さんを呼びつけてしまったが、頷いて同意してくれた。
 炭治郎は本日も眠っている。』

『◎月△日 曇り
 今日から山下りの場所が変わることになった。昨日までよりも更に険しく空気の薄い高度だ、狭霧山に完全に慣れたと書いたがまだまだ上がある。
 道なんて無いも同然の崖を通らなければならなかったり高所から飛び降りなければ進めなかったり、半歩でも足の踏み出す場所を間違えれば死ぬだろう。
 炭治郎は本日も眠っている。恋鳥たちに名前をつけた。雄は赤い尾が特徴的で大きな餌も持てるほど力が強かったので神楽。雌は目元にまるで眼鏡のような模様がついているので新八。二羽は炭治郎の友達だ。

 追記
 雌に新八とはどうなのだと鱗滝さんから言われた。そんなに駄目だろうか?新八。とても彼女に似合っていると思う。忙しなく動くし神楽に振り回されているし、そして何より神楽の身に危険が迫っていると底力を発揮するところなんてまさに新八だ。いかに彼女が新八なのかを話していたら分かったもういいと話を切り上げられた。振ってきたのは貴方なのだから最後まで聞いてほしい。』
 






『◇月◎日 晴れ時々霧
 狭霧山にやってきて十ヶ月。
 もう教えることはないと、鱗滝さんは言った。あとは私が如何に教えを昇華できるかどうかだと。
 そして最終選別の為の試験を与えられた。
 大岩斬りを達成しなければ最終選別への許可は出ない。私や鱗滝さんよりも遥かに大きいのだが、私はいつかこれを斬るのだ。
 しかしまだ未熟な身、今日も今日とて山下りと訓練。もっと努力が必要だ。
 炭治郎は本日も眠っている。神楽が持ちこんできた小石が邪魔なのだが、捨てると怒るので、仕方が無く炭治郎の額の上に乗せて塔を作り出す遊びを開催。

 追記
 寝返りで崩壊した。残念。』


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