弟たちの見本として、竈門家の長男として、私は何処に行っても恥ずかしくないような男になるべきだ。背筋をシャンと伸ばし。礼儀正しく親切に。笑顔浮かべる頼れる男を。そう、記憶の中にいる、自分の如く。

「って、私はナルシストか何かですか」
「なるしすと?」
「自己愛が激しい人の事ですよ、茂」
「へぇー!兄ちゃん物知り!」

お恥ずかしい、独り言が漏れていたようだ。今後は気を付けねば。

「自分の事が大好きってことだよな?兄ちゃん自分大好きなのか?」
「どうでしょう。嫌いではないですが……」
「えー、俺が兄ちゃんだったら自分の事めっちゃ好きだよ」
「竹雄は自分の事が好きではないのですか」
「……嫌いじゃない?くれぇかな」
「竹雄も同じですね。自分自身のことはあまり認めてやれない性質なのでしょう」
「俺は兄ちゃん好き。もっと自分の事認めるべきだ」
「おや奇遇、私も竹雄が好きですよ」
「わー!」

嬉しそうに抱きついてきた竹雄の肩を叩き、ついでに一緒にやってきた花子と茂を受け止める。俺も私も兄ちゃん好き、と言いながらぐりぐりと頭を押し付けてくる姿に頬が緩む。重心を下げて二人の腰に手を回すと、同時に抱き上げてグルッと回る。

「きゃあっ」
「あはは、ぐるぐるだー!」

何回か回転してスピードに乗り、二人は楽しげな声をあげた。ぐるぐるを続けると二人の目が回ってくるので様子を見て止める。二人の足を地面につけた途端に酔っ払いのような千鳥足でふらつく。

「うひゃあ〜」
「おめめぐるぐる〜」
「落ち着くまで地面に座ってなさい」

私の言葉でこてんと倒れる二人。箸が転げても面白い年頃なんだろう、視界がぐにゃぐにゃになって笑っている。六太をあやしていた炭治郎は優しい目でその様子を見守っていた。

「お疲れ様、炭治郎。交代しますよ」
「ううん。兄ちゃんの方がいっぱい仕事してるんだからこれぐらいやらせてよ」
「無理はしないこと。いいですね?OK?」
「おっけー!」

にっかりと良い返事で満面の笑みを浮かべる炭治郎の髪を撫でる。擽ったそうに首を竦める炭治郎の動きに釣られて、先日贈った赤紐の耳飾りが揺れた。

「似合ってますよ、炭治郎」
「……えへへ」

父が亡くなり花札のような模様をした耳飾りを私が受け継いだのはつい最近のこと。炭治郎は私の耳元で存在を主張する耳飾りに一番強く視線を送ってきた。欲しがるのなら渡したいところだが、これにはちょっとした事情があるので無理なのだ。
その代わりに、溜めていた小遣いで贈り物をしたのがこの赤紐の耳飾り。丹念に選び抜いた甲斐あって、炭治郎はとても喜んでくれた。申し訳なさそうでもあったが、これぐらい素直に喜んで受け取ってほしい。


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