見上げれば青い空に白い雲。空気を吸うと、淀んだものは殆ど混じっていない綺麗な酸素が肺に入る。それを疑問に思っていた。可笑しいな?うーん?と首を傾げる俺を両親は抱き上げて、そういうものだと笑っていた。

父さんも母さんも黒い髪と黒い目。父さんの方は赤みがかっちゃいるが、それだけだ。川を覗き込む俺の目は赤かった。可笑しいな?うーん?と川に手を伸ばして水面に映る自分をばちゃばちゃ叩く俺に、両親は御産の前に苺を食べちゃったせいだと笑っていた。

ある日、両親がそわそわしながら町に下りて医者にかかった。診てもらうのは母さんだけらしく、待合室で父さんはとてもそわそわして俺を膝に抱え、ひたすらお腹をぽんぽんしていた。摩擦で熱が籠って熱いくらいだった。

「雪成、やったぞ、弟か妹ができる」
「んー?」
「まだ分からないかしら?ふふ、家族が増えるのよ」

実際の所意味はまだよく分かってはいなかったが、父さんも母さんも嬉しそうだったので俺も嬉しくなった。にへ、と笑うと、二人は更に喜んでいた。
そして無事に出産は成功し、初めての弟である炭治郎が生まれた。その頃からなのかもしれない、とある夢を見るようになったのは。
夢と言うには見える風景はやけに鮮明で、出てくる人たちは馬鹿丸出しで、天人という空の向こうからやってきた宇宙人もばんばん現れた。

「……?……??」
「おはよう雪成、どうした?」
「おなかすいた……」
「そうか、ならご飯の用意を」
「ひものがいい!」
「干物……?」
「するめ、たべたい!」
「烏賊かぁ……まず売っているかどうかだな。直ぐには食べられないが、待っていられるな?」
「おれつくれるよ、おれがつくる!」
「そうか、そうか。凄いな雪成」

夢で見た不可思議な知識を語る俺を、両親は静かに受け入れた。夢の内容によっては深夜愚図り泣きを起こす俺に母さんは朝まで付き合ってくれたし、夢と現実を混同させることがあれば父さんはゆっくりと俺と家族の思い出を語って引き戻してくれた。

「にーちゃん!」
「なんだ、どうした?」
「みてみて、どんぐり!」
「いっぱいあるなぁ、炭治郎は団栗をみつける天才だ」
「あげる!!」
「これ全部?」
「うん、ぜんぶ!!」
「ありがと、炭治郎」

そして何よりも。一つ年下の弟、炭治郎。兄と呼んで慕ってくれるこの子がいる事で、俺は夢――――かつての記憶と今の区別をハッキリと付けられた。まあ、記憶などという大層なもんではなく子供が脳内でごちゃごちゃ作り上げた、ただの空想なのかもしれないが。それでも生まれて数年ぽっちの幼い俺には危険すぎるものだった。

「兄ちゃんどう?おれも木きれるようになったんだぜ!」
「ねーっ疲れたからだっこしてだっこ!」
「だめ!おれがだっこしてもらうの!」
「にー、にぃ、に、ちゃ!」

妹と弟たち。みんな、俺を慕ってくれている。俺を呼び止めてくれる。もし家族がいなかったら、俺はきっと膨大な数の記憶に押しつぶされて自我が無くなっていただろう。
だから、というわけではないけど。俺は家族のことを愛している。大好きだ。
竈門家の一番上の子供として、胸を張って生きる。

かつての小さい俺がどんなに求めても手に入れることができなかったものを、大切にしたい。
天人がいないであろうこの世界を、俺は生きていく。


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