「お〜い!コナーン!灰原〜!」 カードを観察している二人を観察している中、チケットを持った三人の子供が元気いっぱいに駆け寄ってきて、その後に遅れて太り気味のお年寄りがフラフラと。 「ヤベッ、厄介なのが戻ってきた……」 「何やってたんだよ二人とも」 「誰ですか?その男の人」 「うわ〜っ!」 どうやら団体客だったようだ。子供の一人が俺の存在に気付き、もう一人が嬉しそうに声をあげる。 「お兄さんの目、右と左で色が違う!キレ〜イ……」 「偽物の目を入れてんのか?」 悉く目に関心がいくな。もしやこの場で一番俺に興味が無い人間は俺なのではないだろうか。おかしいな、俺だって俺のことを知りたかったはずなんだが。 「違いますよ、元太君。お兄さんはオッドアイだと思いますよ」 「オッドアイ……?」 「変な名前だなぁ、兄ちゃん」 「あ、いや、この人の名前じゃなくて……」 そこから始まるコントのような会話。六、七歳の子供はオッドアイなんて知らない方が普通だ、冷静に俺の行動を洗おうとするコナンと灰原と呼ばれた少年少女たちの方がおかしい。 自信満々にオットセイだと言う少女へ一つ人差し指を立てる。 「君の言う通り目のことで合ってるな。ただし、オッドは半端や不規則を意味する英語だ。つまりオッドアイっていうのは?」 「え〜と、う〜んと……?」 指で両目をちょんちょん。ここにあるぞー。 「あっ、そっか!右と左で目の色が違うことを言うんだね!」 「ナイスアンサー、お嬢さん」 パチンと指を鳴らしてウインクを返すと少女は恥ずかしそうにはにかみ、丸っこい少年は未だに意味が分かっていないようで不思議そうにしている。すると、保護者らしきお爺さんがようやく合流した。 「君たちはこんなところで何をしとるんじゃ?」 「丁度良かった。博士」 「このお兄さん、事故に遭ってどうやら記憶喪失になってしまったみたいなの」 「本当か!?新──いやいや、コナン君」 新?お爺さんが言いかけたことも気になるが、それよりも。 ……既視感が増したぞ。老人一、男の子供三、女の子供ニ。この並びに凄まじい既視感があるんだが、これは一体なんだ。この様子だと俺とは顔見知りですらないようだが……? 「もしかしたら、昨日の事故が原因かも……」 「すぐに警察に届けた方がいいだろうな」 「いや、それは嫌だ」 コナンの常識的な提案に眉を顰めて否定する。すると当然、何故なのかと灰原に問われる。 「国家権力の犬に頼りたくない」 本当にこれで合っているのか分からないが、とりあえずバッサリ言い捨てた。良いイメージがないのは事実なものの……これだけが理由じゃないよなぁ。 あ、全員ちょっと引いている。 「じゃが警察に保護してもらわんと、病院でちゃんと検査してもらえんからのぉ……」 「まあ、ですよねぇ」 お爺さんの言う通り。警察に行くのが一番だし、そうすべきだ。それが嫌なんだが。 「ちょっとコナン君」 「これこれ、いきなり写真を撮るなんて失礼な」 突然コナンくんが自前のスマホを取り出し、シャッター音が鳴る。カメラの先には俺。断りもいれずに写真なんてマナーがなっていないと言わざるを得ない。目を細め、低い声でコナンくんを見下ろす。 「無許可の撮影はトラブルの元だ、子供だからといって許されるもんじゃない」 「ごめんなーい……お兄さんは警察には通報しないから、代わりにお兄さんの知り合いを捜す為に写真が必要なんだ、もうちょっと撮ってもいい?」 しょんぼりしながらおずおずと伺いを立ててくるので、スマイル&ウインク&ダブルピース。 「いーぞ」 複数人の声が重って「いいんかい!」と突っ込みが入った。良いぞ、別に。 「は、ははは……ありがとうお兄さん、記憶を取り戻す手伝いもしていいかな?」 「マジかよ、コナン!」 「私たちも手伝わせて!」 「なんたってボク達は少年探偵団ですから!」 コナンからの提案に表情を輝かせた三人それぞれがポーズを掲げ、灰原は溜息を吐く。なんとなくこの集団の雰囲気は掴めたな。 「私たちがお兄さんのお友達を捜して、それで記憶を取り戻してあげる」 「大船に乗ったつもりでいてください!」 「んー……そうだな、じゃあ頼むわ」 警察に通報しない云々は嘘だろうし、暇潰しには丁度いいか。子供が勝手にやっただけなんですぅ、僕は警察に頼ろうとなんてしてませんからぁ。 張り切った子供達が早速行動に移そうとすると、お爺さんは慌てて身を乗り出した。 「君たち、観覧車はどうするんじゃ!?」 「何言ってんだよ、博士!そんなモンに乗ってる場合じゃねーだろ」 「まずあのイルカさんに訊いてみましょう!」 「博士ジャマー!」 子供達はお爺さんを押し退けて、俺の手を引き近くで風船配りをするイルカの着ぐるみへ向かって行く。 「こら君たち、遊び半分でそんなことしちゃいかーん!」 哀愁漂うお爺さんの声に振り向き、ぺこりと頭を下げた。いやあご迷惑をおかけします。 戻る |