屋内対人戦闘訓練。
ルールは簡単。ヒーロー側はヴィランチームを「確保」又は核を「回収」すること。ヴィラン側は制限時間内まで核を「守る」かヒーロー側を「確保」すること。
それぞれの持ち物は小型無線と建物の見取り図、そして確保テープ。如何に己の個性を駆使し、最大限に活用できるかが重要だ。
制限時間は十五分、核の場所はヴィラン側のみが知っている。ヒーローチームはこの不利な状況で活路を見出していき、ヴィランチームは将来対峙する犯罪者の思考を分析し理解する。

一番目はヒーロー側のAチームとヴィラン側のDチームの戦闘。
Aチームが侵入し訓練が始まった直後、爆豪の奇襲によって開幕から戦闘勃発となったがその行動を読んでいた緑谷は回避に成功し、反撃で一本背負いを喰らわせる。

「いつまでも雑魚で出来損ないのデク≠カゃないぞ……かっちゃん、僕は……「頑張れ!!」って感じのデク≠セ!!」

二体一では時間切れの可能性がある為、緑谷は麗日を先に行かせてそのまま爆豪との直接対決に挑む。
モニター越しに緑谷と爆豪の戦いを他の生徒と共に観察する雪成は、緑谷の幼馴染への理解力に感心していた。

(爆豪は緑谷を侮り何も見ていなかった、その反対に緑谷は爆豪を長年分析してきたんでしょうね)

モニタールームには定点カメラのみで、教師であるオールマイト以外には実戦する彼らの会話は届いていないが、爆豪の激高を見れば粗方の予想はつく。
緑谷が確保テープで爆豪の左足を巻こうとするが、確保されまいと動いた爆豪の爆破攻撃を避ける為に確保行為を取りやめて回避。右の大振りで爆破、それが爆豪の癖だった。幼馴染の行動に読み切り、フルカウル1%で身体能力を底上げすることで完全回避を続ける緑谷。

「すげぇなあいつ!!完全に先を読んでいやがるぞ、入試一位相手に!」

怒鳴る爆豪。逃げる緑谷。
緑谷はワン・フォー・オールの調整に慣れようとしている真っ最中であり、微細なコントロールが利かない。つまり、弱々しい一撃か、殺す一撃か。
才能の塊である爆豪が相手では1%の力など話にならない、かといって本気で撃てば間違いなく死ぬ。
フルカウルで全身の力を上げても、逃げに徹して作戦を考えることしか出来なかった。
一連の様子を雪成は観察し続ける。
逃走した緑谷を発見した爆豪。戦闘服として取り付けた右腕の機能を作動させようとする瞬間、オールマイトが通信機を使って声をかけた。

「爆豪少年ストップだ、殺す気か」

制止だ。事前に度が過ぎれば中止にすると言ったオールマイトが制止をかけるような行為を爆豪は行おうとしている。雪成は注意深くモニターを見つめた。正確にはモニターに映る緑谷が取る行動を眺め、観察していた。

「当たんなきゃ死なねぇよ!」

戦闘服のサポートアイテムによって溜められた汗を、収束させて一度に爆発させる。訓練で人に向けるべきではない威力の爆破が緑谷を対象に放たれた。
大きな振動と衝撃音がビル内に響き渡り、地下に存在するモニタールームにまで届く。

「そんなん……アリかよ」

オールマイトに名を呼ばれた緑谷は、なんとか爆豪の攻撃に当たることはなく生きていた。だが、眼前で目撃した途轍もない威力の爆破に恐怖を抱き、短く息を繰り返してビルの残骸を一瞥した。

「個性℃gえよデク。全力のてめェを ねじふせる」

爆豪と緑谷が争っている一方で、五階にて対峙していた麗日と飯田。

「君の個性≠ヘ触れない限り脅威ではない!!このまま時間いっぱい粘らせてもらうぜ!ぐへへへへ!」
「ぬう……!デクくん頑張ってるのに……!」

核を発見することは出来たが、飯田の速度を上げる個性によってタッチが叶わずに汗をかく。
無重力という個性の関係上、触れてしまえばこっちもの。だが飯田の言う通り、その一手を触れることが許されない。制限時間まで守りきれば良い飯田が圧倒的に有利だった。

「先生止めた方がいいって!爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」
「いや……」

モニタールームの中で唯一爆豪の発言を耳にしていたオールマイトは、個人的な欲求と共に切島の意見に首を横に振る。
雪成は勧告を爆豪に告げるオールマイトを横目で見つめ、赤い目を細めた。

(私なら止める……かつての私ならどうだろう)

普通ならば爆豪が大規模の爆破を放った時点で訓練を中止にさせている筈。だがそれをしないオールマイトを見て、彼が教師として一年目の新米だからそう判断するのか、トップヒーローの視点では別のものが見えている可能性を考え、息を吐いた。
その間にも戦闘は進み、爆豪の攻撃を再び回避しようとする緑谷に対して目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更を行い、背後からの一撃を加える爆豪。

「へえ。繊細な力の使い方も出来るんですね、意外です」

人を見下す性格をしている爆豪だが、そうなるのも無理はないほどの才覚があるのが分かる。
爆豪に追い縋ろうとする傷付いた緑谷と、大した怪我は負っていないにも関わらず焦った様子で追撃を続ける爆豪。
爆破の個性を持つ者で、緑谷の幼馴染。そしてあの緑谷の言葉。

(……爆豪とも会ったことあるんですよね、きっと)

幼少期、ヒーローかヴィランになればきっと容易に名を残せる爆破という個性を持つ誰かがいたような気がする。忘却の彼方になっていた記憶を少しだけ思い出した。


「勝って!!超えたいんじゃないかバカヤロー!!!」

「その面やめろやクソナード!!!」


必死の形相で目元に涙を浮かべる緑谷に、泣きじゃくる小さな子供の姿が重なった。
子供はしゃくり上げて服の裾を握りながら、雪成に向かって口を開く。
「僕もなれるかなあ?」
はて、自分はそれになんと返したのだったか。


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