あれから突然彼はブツブツと独り言を話しだしてトリップしてしまったので、腕を引っ張って無理やりグラウンドに連れ出し、彼の靴箱から取り出した運動靴を押し付けた。面倒を見る範囲はここまでだ。
案の定私たちは最後だったらしく相澤先生にじっ……と見つめられたが、一礼をして謝るとそのまま視線を逸らされる。小言もなにもなかった、意外。

「じゃ、今から個性把握テストを執り行う」
「「「個性把握……テストォ!?」」」

初っ端からテストかぁ……

「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

体操服で入学式を行うとも思えなかったがまさかのカット。校長先生の長い話は嫌いなので生徒側の意見を言うと入学式カットはどうでもよかったのだが、こうもバッサリと言い切る教師も珍しい。

「雄英は自由≠ネ校風が売り文句、そしてそれは先生側≠烽ワた然り」
「「「……?」」」
「ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?個性°ヨ止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる、合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」

一理ある。ただ、理性の薄い子供はふとしたことで羽目を外す。雄英のように設備が整い、プロヒーローがそこかしこにいる贅沢な環境ならどんなに優秀な生徒がうっかりを起こしても解決出来るだろうが、それ以外の学校には対処が難しいだろう。

「円から出なきゃ何してもいい、早よ。思いっきりな」
「んじゃまぁ、 死ねえ!!! 」

特にこういう尖った奴相手だと並みの教師じゃ無理ですね。

「まず自分の『最大限』を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

相澤先生の持つ測定器に705.2mの表記が出た。この先生はどうやら無駄が嫌いらしい。個性ありの運動に色めきだったA組に、最下位は除籍処分だと言い渡してお遊び気分を一気に削ってきた。教師側の意見を言わせて貰うと「そういう方針、嫌いじゃない」である。

「放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。Plus更に Ultra向こうへ≠ウ。全力で乗り越えて 来い」

あの先生の目、ガチですよぉ……ガチで処分する気ですよぉ……!なんなら素質がなければ最下位以外の生徒も処分しちまいますよぉ……!ちょっと一緒に教師生活を送ってみたいくらいである。私がヒーロー止めるまで待っててほしい。

「まず第1種目は50m走から、出席番号順に二人ずつで……さっきならなんだ轟、何か言いたい事があるならお前も言え」

やべ、熱心に見つめてたのバレた。折角だし聞いてしまおう。

「相澤先生は定年まで教師を続けられるおつもりですか?」
「その質問はこの場で必要ではない。非合理的だ」
「そうですね、失礼しました」
「……怪我や事故がなければその心積りだがな」
「御返事ありがとうございます」

やったー、やる気出てきました。これから頑張ろう。
相澤先生の時間差ツンデレ返答にやる気気力元気が回復し、ウキウキとテストに挑む。
50m走は氷で即席スケートリンクを作り炎を逆噴射させて滑走した。握力は個性未使用。立ち幅跳びは炎を逆噴射して跳んだ。反復横跳びは炎を瞬間的かつ連続的に逆噴射して跳んだ。ボール投げは氷で道を作り限界まで転がし続けた。

「どーいうことだこら、ワケを言えデク てめぇ!!」
「うわああ!!!」

緑谷は入試や今のテストを見る限り、増強型だ。調整に慣れていないようだが、入試での破壊力を見るにこれから欠点を補って100%の力をノーリスクで使えるようになるとすれば……オールマイトよりも強い。強くなれる可能性がある。

(頭がイカれてるのがオールマイトに似てる、個性もオールマイトに似てる……)

万能性は八百万、攻撃力は爆豪、速度は飯田、隠密性は葉隠、水難救助なら蛙水。No.1になれる素質を持つ者は流石天下の雄英、沢山いるというのに、何故だろうか。
私は緑谷に対して、最もオールマイトに近しいものを感じていた。

持久走は50m走と同じ要領。上体起こしは個性未使用。長座体前屈は個性未使用。だいたい良い感じの結果は出せた自信がある。……しかし!

「あれ轟くん、前屈は個性使わなかったの?」
「ええ、まあ……やろうと思えば氷で出来たんですけど……」
「指先から離れなきゃOKなんだからやれば良かったのに!」

出席番号で組んでいる葉隠からの突っ込みが耳に痛い。
他のテストは「瞬間的or長期的に早く向かえるか」「瞬発力はどれほど高められるか」「目標物をどこまで飛ばせるか」を測っていたが、これは「身体をどの程度曲げられるか」を確かめてるのかと思って、普通にやろうと使用しなかった……のだが……

「……今考え直せば『手が届くのはどの範囲までか』ですよねぇ」
「えっなになに?轟くん大丈夫?具合悪いの?」
「平気ですよ、葉隠」

相澤先生怪訝そうな顔してましたね。すみません、ただの読み間違いです。どうしましょう、手を抜いたとみられて除籍にされたら…………

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ、口頭で説明すんのは時間の無駄なので一喝開示する」

よし、別の高校のヒーロー科に中途入学するか。

「ちなみに除籍はウソな」

よーし御眼鏡にかなっていたようで何より!雄英でやっていけそうで嬉しい!……ちょっとビビッてました。うへぇ。安心しながら映し出された結果を見ると、私は2位だった。1位は八百万で、緑谷は10位。

「緑谷。リカバリーガールのとこ行って治してもらえ、明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

一番良い記録を出したボール投げで指を折っていた緑谷はそのまま保健室に向かうらしい。後は各自解散して、教室に置いてある書類を持って帰るだけ。
とりあえず体操着から着替えねば。ぞろぞろと教室に戻ろうとしているクラスメイトに後ろからついていこうとすると、なんと緑谷から声をかけられた。

「ゆぁいやっ轟くん!あ、後で話したいことがあるんだけどいいかなぁ!!?」

……もしや私が彼を意識していたように彼も私を意識していたのだろうか?
そういえば、テスト中もチラチラこっち見てきていましたし。挙動不審だから私だけを見ているわけじゃないと思っていたんですけど。


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