仕事が忙しいとあっという間に四季が過ぎていく。桜が咲いたと思えば散り、カンカン日照りが続いたかと思えば雨が続いて梅雨に入り、紅葉狩りの季節に入っても焼き芋も焼けずに終わり、雪が積もったかと思えば一部の屋根が重さに負けて倒壊したり……そうこうしている内に四年の歳月が流れた。

多々益々弁ずということで影分身の乱用が前提に組まれたスケジュールも今では落ち着いて、火影邸の通路を歩いていても同じ顔と何度も擦れ違うことはなくなった。そのことに一番喜んだのは火影である柱間だ。チャクラが山ほどある者は当然分身を多く作らなければならないし、火影という立場はやる事が盛り沢山であるからして、それから解放された柱間の喜びようは一入だった。

「いや本当、お前たちが開発した影分身がなければあの書類は乗り切れなかった……いやその分同時に熟さなければならない量も増えたわけだが……いやとても助かったが……いやしかししんどかった……いやなんというか体力はともかくとして精神的疲労がきつかったな……」

「お疲れ様です火影殿」
「里の長に相応しい働きっぷりだったぞ兄者」

((里一番のチャクラを持つ火影に一番仕事を割り当てて一番働かせたのは口外しないでおこう))

扉間と視線を合わせ、同じことを思いながら黙って頷いた。

あの繁忙はもう二度と味わいたくはないが、扉間や各一族の長たち、それぞれの参謀、相談役や有力者と幾度も議論しあいながら決定していっただけあって、木ノ葉隠れの里が今後も続いていく為の地盤は最低限出来上がったと納得のいく出来だ。
里に所属する忍に下す絶対の掟。
上中下に別ける忍の位階。
国や民から依頼される忍務の難易度選別基準及び報酬の基本額。
うずまき一族から千手一族に伝わった封印結界の術を元に作成した里を守る結界術の付与。
どれもこれからの木ノ葉や忍界に必要なものばかりだ。一時的に隈が出来てしまったのは御愛嬌だろう。

さて、ところで経過した時間は四年。四年である。四年と言えば、忍者学校に設定した教育期間も四年だ。
そう、忍者学校に通っていた第一期生もカリキュラムを終える季節。
掲げる教育理念は『個性を尊重する忍の教育』、第一期生たちは無事四年間の期間を経て、卒業試験も合格して下忍となった。
とても喜ばしい。喜ばしいが……もっと傍で見守って授業をしたかったという欲が出てくる。具体的にいえば教師になりたい。

だが……駄目……!私、これでもこの里でも結構偉い立場……!
扉間が私の履歴書を無情にも切って捨てたが、それは当たり前だ。こんな風に対応されるだろうなと思いながら提出した。残念ながら今の私の立場では教師には成れない。引退もさせてくれない。ある程度落ち着いてきたとはいえ、木ノ葉はまだまだこれからだからだ。

「本日皆さんにはシチュエーションパズルという遊びで判断力や思考力、水平思考を鍛えてもらいたいと思います」

落ち着いてきたんだからもっと忍者学校に顔を出しても良いよね?
良いぞ!(裏声)
ありがとう心の中の柱間くん!

「シチュエーションパズルについて説明しましょうか。まず、出題者が問題を出す。そして解答者たちは答えを探す為に出題者へイエス、ノーで答えられる質問を出す。質問を繰り返して情報を集めていき、解答者は出題者が用意した答えを推測して語る。それで全ての謎を説明できたとき、このパズルは解けたことになります」

生徒たちの様子をみれば理解できている者は三割といったところだった。半数以上が首を傾げていたので、例え話を出す。

「ひとまず一回やってみましょうか。問題です、『四つの林檎を三人で平等になるように分けたいです。しかし包丁が無く切り分けることが出来ません。三人の中の一人が林檎を切らずに均等に分ける方法を思いつきました。さて、どのようにするでしょうか?』では、はいかいいえで答えられる質問をどうぞ」

難しい顔で腕を組んで考え始める生徒たち。誰から質問を始めるのか眺めると、一人の生徒が勢いよく手を上げた。

「はーい、僕なら素手で平等に割れます」
「残念、誰でもできる方法です」
「えー……」

忍を志している者にしてはふくよかな体型……秋道一族のトリフくんだったか。手を上げ辛い空気の中で最初に動いたのはプラス評価。

「まず質問からだろうバカッ!ユキナリ様、質問をしてもよろしいでしょうか!」
「ええどうぞ……志村ダンゾウくんですね。今の時間私は一介の教師なので気軽に先生と呼んでください」
「は、はい……包丁で切らずに均等に分ける方法というのは、他の道具も何も使わずに分けられるんですか?」
「イエス」
「……磨り潰したりもしませんか?その場には何も無いと?」
「イエス、その通りです」

頷けばダンゾウくんは皺を寄せた。問題に出てくる『包丁がないので、切らない方法を思いついた』という文から、ならば、それ以外の調理器具ならあったのではないか?と考えたか。ジャムなどに作り変えて均等にし三人で分けるのはどうかと発想したんだろう。この子もプラス評価。
ダンゾウくんの後に続いた生徒たちからの質問にイエスノーと答えていく。
くるくるした髪質の男子生徒、うちはの家紋が描かれた服を着る生徒が手を上げた。

「どうぞ、うちはカガミくん」
「はい。答えは『もう一人友達を連れてきます』。それで一人一個になります」
「……違います。三人のまま平等にしてください」

惜しい。正直カガミくんの答えを採用しても良いんですが、出題者として事前に決めていた答えを途中で変更するのはいけないことなので残念だが不正解。質問の時間が長くなってきたことで、イエスノー以外にもヒントを付け加えていく。

「三人でリンゴを一個……そんなん三個じゃないとムリだろぉ?…………あっそうだ!!はーい!!」
「はい、ヒルゼンくん」

生徒たちの中でも積極的に質問をしてきた猿飛一族のヒルゼンくんが俯きながらぶつぶつ呟いていたと思いきや、バッと顔をあげて堂々と挙手。

「『リンゴを一個捨てる』!そうすりゃ一人一個になる!!」
「正解です!」
「やったあああ!!」

両手をぶんぶんと振りながら飛び跳ねるヒルゼンくんに拍手を送った。生徒たちの大半が同じく拍手を向けるが、ダンゾウくんだけはヒルゼンくんを睨みつけていた。授業中の態度を見る限り、どうやらライバル視しているらしい。

「あの、でもユキナリ先生、それだと捨てるリンゴが勿体ないです」
「そうですね、捨てるなんてとんでもない。ですが今回はゲームの中での話で、用意された答えを色んな観点から探し出すというものです」

これはあくまでゲームであるから明確な答えがたった一つだけ存在する。しかし現実はそうではない。解決の手段は十人十色だ。友達を連れてくるという考えにまず至ったカガミくんに微笑み、頭を撫でた。

「もし現実で林檎四個を三人で分け合う時に包丁がなければ、カガミくんの答えの通り四人で仲良くお食べなさい。友と一緒に食べるおやつは美味しいですからね」
「……はい、先生!」

癖っ毛の撫で心地の良さを堪能していると、一人の忍が突如授業に割りこんでくる。

「――ユキナリ様、至急御耳に入れたいことが……」
「カザミ」
「父さん?」

うちは一族のカザミだった。随分と焦って動揺していることから相当なことが起こったのだろう。カザミとカガミは互いの存在に目を見張るが先にカザミが視線をずらし、声を潜めて耳元で報告が入る。

「本日落ち合う予定だった岩隠れからの使者をマダラ様が襲撃し、同盟が白紙となりました。緊急会議が開かれます、急ぎ火影邸へ」
「!分かりました」

まさかマダラがそのような平和への道を崩すような真似を……いや、情報が無いままあれそれと考えても仕方がない。ともかく行かなければ。


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