「なあユキナリ……最近のマダラの調子はどうだ?」
「貴方が把握していることと何ら違いはないと思いますが……」
「……そうか」

しんみりした表情でぐいっと一気に猪口を飲み干す柱間。徳利を差し出すと、彼は小さく頷いて猪口を私の方に伸ばして傾ける。零れないようにゆっくりと酒を注いだ。

「どこからどう見ても、仕事に打ち込むことでイズナのことを考えないようにしているようにしか見えませんね。明らかなオーバーワークが続いている所為でそれに付き合わされる周囲の人たちが悲鳴を上げています」
「……」
「なので此処に来る前に睡眠薬を盛って自宅に送り帰しておきました」
「はっはっは!お前らしいな」

柱間の笑い声と干物を肴に私も酒を飲み進める。……うむ、うまい。

「今は確かに猫の手も借りたいほどに慌ただしく忙しい。やることが山積みだ。だが、いつかは空白の時間が生まれて弟の死という現実と向き合うことになるだろう……」
「彼奴はうちは一族の中でも一番愛情深いですからね。蟠りを消化するにはどうしたって時間がかかる」

今度は柱間が徳利を持ち、私の持つ猪口に注いだ。

「そうだ、私がスケジュールを調整するのでまた三人で酒飲みをする機会でも作りましょうか?」
「おお、それは良い!御三家同盟を組んだ時のように車座になって朝まで飲み明かすか!あの時のような盛り上がりはないだろうが、マダラの奴も気が休まるだろうぞ!」

途端にぱぁっと明るくなった柱間。とても分かりやすい。相変わらず忍者としてどうかと思うが、一人の人間として好ましく感じるのも相変わらずだ。

愛情深いのは良いことである。だが、マダラはその側面が極端に強いうちは一族の中でも特に色濃い……イズナの死は間違いなくマダラにとっての転換期になるだろう。
イズナが負傷したことで、マダラはまだ同盟を組むのに乗り気ではなかった一族内を無理やり引っ張り上げて千手と同盟を組み、次いで日向との同盟も合わせて火の国と手を組んだ。科学の医術と忍術の医療、そのそれぞれが間違いなく時代の最先端であり用意できる最大限の医療をイズナに施した。
しかしその努力の甲斐も無くイズナはこの世を去ってしまった。
同胞から不審がられようとも、築いてきた信用を壊すような手腕であっても、全ては弟を助ける為に仇敵の千手と同盟を組んだというのに。

私も、マダラの気持ちはある程度理解できる。
コノハ。ナリユキ。大事な弟たち。この広大な木ノ葉隠れの里を見る事なく散っていった家族。

しかし、私にはまだ兄妹が残っている。唯一生き残った末の妹、コユキが。
生きていてほしい家族は、まだ生きている。
部下も仲間も、上司も同僚も、一族の皆も。長生きしてほしいと願う人たちがいる。
幸せを願う輪は広がっていき、いつの日か里の皆が長生きしてほしいと願う日が来るかもしれない。

マダラ。今は弟の死に向き合えなくてもいい。仕事に逃げて良い。
でも忘れないでほしい、道を進めるのは生者だけだ。
死者は死んだ時のままで歩みが止まっている。
生きている私たちの背中を、死んでいる彼らは見つめている。

「先に逝った方々に情けない後姿は見せ続けたくはないですからね」

会話の最中としては一切の脈略なく呟いた台詞だった。
柱間は黙って頷いた。

それで充分だった。


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