夢とはシャボン玉のようなものだ。透き通った泡が重力なんて感じていないかのようにふわふわと自由に空に浮かび、そしてふとした瞬間に呆気なく割れて消える。
呆気ないからこそ、何個ものシャボン玉を浮かばせて数を揃える。原料を改良して割れ辛くする。
消えてしまうものだからこそ、以前まで浮かんでいたシャボン玉の跡を継いでいく後続のシャボン玉を大切にする。

今までは小さく弱いシャボン玉が無為に割れてしまっていたが、これからはそうではない。
我々がしぶとく生き残り、後ろにいる子たちを守るのだ。
私にとっての里というシステムとは、他の要因も多くあれどその為のものだった。

本当に生きていてほしかった弟たちが犠牲になっているからこそ、私はその犠牲を無駄にしない為に夢を実現させたかった。
夢の実現が叶った先は、その夢を出来るだけ長く存続させる為に動く。

そう、例え、同じ夢を見た友が離反することになるとしても。


 * * *


木ノ葉隠れ里を発展させていくにあたって必要不可欠なものは幾つもある。その内の一つが施設だ。里長邸と一族たちの住居、忍の保養を手助けする医療、腹が減っては戦は出来ぬ食堂、そして――後任の育成。

「教本は完成、学校も完成、事前に配布していた入学願書もある程度提出された……漸くですね」

つい先日に待望していた校舎の建設が終了し、無事火影岩の麓に忍者学校アカデミーが敷設された。
忍者学校で想定している教育期間は四年。
私は六年が良いと言ったのだが、流石にそれは長すぎると却下されてしまった。
だが私たちが願った里とは力のない子供が戦場に送られることのない場所だ。例え六年が長すぎたとして削られても、短くしすぎるのは有り得ない。入学した齢にもよるが四年、最低でも三年間はきっちりと遊び学んでもらう。
飛び級制度の導入は……子供の人格の成熟次第といった所だろうか?如何に力が強い子供だとて精神が未成熟なら戦場に出す気はない。
それぞれの一族にいる五歳から十歳前後の子供の人数分、入学を希望する子がいればサインをして出すように言って渡しておいた願書は、それなりに返ってきてくれた。

「四十七名か、思ったよりも多いな」
「そうですか扉間?妥当な数字ですよ」
「お前が各々の家に押し売りの勧誘をしに行かなかった場合の数よりも多い」

入学願書の数を確認し終えた扉間は書類を纏めながら私を詰るように見てくる。

「私の熱く真っ直ぐな説得が皆さんの心に響いたのでしょうね」
「教育施策の責任者直々に脅迫しに行ったの間違いではないか?」
「説得です。強いて他の言葉を使うならお願いですよ」

こう、にこにこーっと笑顔で。こんな術を教える予定ですよーっと勧誘用教本を渡したり。色々な子と交友できる良い機会ですよーっとメリットを言いまくったり。そんなことをしただけです。断じて脅迫などではない。

「日向家当主がわざわざ家まで赴いてくる時点で相手にとっては権力を盾にした立派な脅迫だろう」
「最初は硬くともー最後には皆さん笑って了承してくださいましたしー終わりよければ全てよしですしー」

扉間は呆れた様子で溜息を吐く。

「はあ……まあ良い、アポなしで訪問された家々から苦情が出ていないのは事実だ……そこは良い、だがこれは駄目だ」

顔面に突き返されたのは私直筆の教師志願書。最後の方にある自由コメント覧には「精一杯頑張ります!」という健気な文字が綴っている。

「え?なぜ?」
「ユキナリ貴様、当主ともあろう人間を忍者学校の教師に配置できるわけがないだろう!!」
「酷いです!私も子供たちに沢山物を教えたり教わったりしたいです!」
「そんなになりたいのなら別の奴に当主の座を渡せ!それでもユキナリに任せる仕事は山ほどあるから到底不可能だがな!」
「ぐあああ仕事が憎い……!!」

机にどっさりと置かれている書類、書類、書類。大名とその配下に送らなければいけないもの、建設したばかりの学校の運営について記されたもの、それぞれ一族から逐一届く要望と言う名の不満、etc本当に色々ある。この書類地獄はいつまで続くんだ。マダラたちと一緒に捌いているが減る以上に増える一方である。
それらを手で示しながら怒る扉間を前に頭を抱えた。

「そうだ、隠居しよう」

顔を上げそうだ京都に行こうのノリで指を立てた。

「楽隠居なぞオレが許さん、馬車馬のように働け」

ガッシリと肩を掴まれながら締切が今日までの書類を押し付けられる。悲しみ。それに私、どんなに深夜まで作業しても残業手当て出ないんですよ……トップだから……お賃金出す側……

「この鬼!悪魔!扉間!!」
「オレの名を悪口の比喩に使うな!!」

ええい、こうなったら死なば諸共です!柱間も散々こき使ってやりますよ!
喰らえ火影が最終確認しなくちゃいけない書類爆弾=I


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