「クソガキ、てめぇこの前はよくもやってくれたなぁ」 「ぶっ殺してやるよ!」 前方で見るからにヤクザの風体をした数名が丸刈りの男を取り囲んでいた。ちょっと神室町限定商品を探していたらこれ、相変わらず治安が悪いことだ。飛び火しないように回れ右。遠回りになるがしょうがない、これも自衛手段の一つ。 何も見なかったことにして目当ての雑貨店に向かおうとすると、ある声が耳に入った。 「不意打ちでボコッて悪かったよ、ああいうのはもう二度とやらねえって決めた……つっても聞いてくれねえよな!」 「ん……?」 反射的に振り向いてしまった。聞き覚えがある声。もしかすると兄よりも聞き慣れているかもしれない声があの丸刈りの男から聞こえてきた。丸刈りの男は襲い掛かってきた男たちの一人を往なして裏路地に走っていく。 「追え!」 「半分はあっちから回り込め、俺たちはこのままガキを追う!」 半々に別れて丸刈りの男を追跡するヤクザたち。その手にはバットや金属の棒、鉄パイプ、それぞれが武器を握っている。 「……うーん」 肩にかけている竹刀袋、ヤクザたちが去っていった方向、交互に見遣る。いや、悩む要素とかないんだけどな。あんなの放っとくのが一番なんだよ。本人の自業自得だろう。 首突っ込むとか、そんなのアホがやることだし? ガツン。鈍い音が薄暗い裏路地に響き、ヤクザたちの視線が俺に移る。 後ろが隙だらけでがら空きになっていた男が意識を失って崩れ落ちるのを蹴飛ばした。ヤクザ連中の数を一人ずつ指差して数えていく。 「誰だテメェ!!」 「おっさんが一人二人三人……うわあいっぱいだぁ、親父狩り絶好調だぁ」 なんか増えてる。途中で止めて目測に切り替えてから指を宙でぐーるぐる。今の俺の格好は超視界不良なので数を数えるのは不向きだ。目出し帽を被って、更に迷彩ゴーグルを取り付けている。身バレし易い制服は上着だけ脱いで、全部竹刀袋に突っ込んで空っぽのドラム缶の中に隠した。 シャツ、学生のズボンと靴、それから木刀。アンド帽子ゴーグル。 これでも有名学校の優等生として名高い良い子ちゃんなので、バレちゃ不味いわけよ。バレないようにしなきゃいけないわけよ。 「そぉいッ!」 首や頭にガッツンガッツンと一人一つずつ与えて終了。一撃必殺って良い響きですわ。こういうのはスピード勝負である、人数も強さも大したもんじゃかったのが幸いだった。 さて、親父狩りと言ったからにはやっぱり財布の中身も頂戴しておこう。……うわシケてんなぁ!ガキ一人をあんな風に挟み撃ちしてやり返そうってこと考えるくらいだから、タマもなければ頭もない、そして金もないのか……哀れな…… 「お、お前は……?」 そこら中に痣や血の滲んだ傷を作りまくった丸刈りの男に手に持っていた財布を投げつけた。 「ぶ!なっなにすんだよ!?」 「一割はやる、エサ代だ。……あー、あとこの程度も返り討ちに出来ねえならヤクザに手ぇだすのは止めた方が良いぞ」 「え、エサ……?お前に言われなくても、俺はもうヤクザ狩りから手を引いて大人しくしてたんだ……此奴等にゃ俺の事情は関係ねえから追い掛け回されっぱなしで、今じゃこんな人数まで膨れ上がっちまったがな……」 自嘲気味な薄笑いをしながら俯く丸刈りの男の姿を見ていると、なんだか不思議な気分になってくる。……ギャップがあるからか?なんか、顔と声と……性格が不一致。俺の感覚のが変なだけなんだがなぁ。んん、ともかく変な気分だ。 「ゾクの仲間から売られて、ヤクザに追われて……家なしで……そんで今日はお前が此奴等をボコボコに伸しやがって……あーあ、明日からどうなっかな俺……」 イラッとくる。ムカついたのでそのまま丸刈りの男を殴り、壁に押し付けた。 「ゴッ、は……!?て、てめ……ふざけ、やがって、放せよ」 「選べ」 「……はあ?」 「このままこそこそとネズミみてーに這い蹲ってヤクザから逃げ続けるか、強くなって伸し上がるか。選べ」 「何言ってやがる?」 「お前が弱いのが気に食わねえんだよカス、生きるか死ぬかだとっとと選べ三秒以内、はい一」 「頭湧いてんのか、」 「零死ね」 「ぶぼごっ!??!?ッ……に、にとさんは!?」 「知らねえよそんな数字、男は一を覚えてれば生きていけんだよ」 零って言ってなかったか?という視線もなんのその、丸刈りの男の首根っこを掴んで引きずっていく。竹刀袋をドラム缶から回収し、裏路地から出る前に顔に付けてるアイテムをどっちも外す。あーすっげぇ解放感。 「おい!!放せ!!」 「生きてる癖に死に掛けの面しやがって本当に気に食わねえ。……おい、いいかハゲ」 「ハゲてねえよ!!!剃ってるだ、け……」 丸刈りの男の首を目の前に持ってくる。至近距離で男を睨みつけると、息を呑みこんで押し黙った。根性なしが。 「家がないってんなら丁度いい所を知ってる、そこに連れてってやるからまず働け、そんで腐りかけた目を直せ」 丸刈りの男の目が少しばかり揺らいだのを見て、まあこれくらいなら直ぐに持ち直しそうだなとは思った。 惜しいんだよ、此奴は。見所はある。光るもんがあるのにあんな裏路地でグチグチとうざってえ。 「お前は強くなる。俺が強くしてやる。背筋を伸ばせ!そうすりゃお前の中に芯が出来てくる。それを真っ直ぐ一本立ち続ければ、きっといつかは何があっても折れない魂が生まれるさ」 健全な精神は健全な肉体に宿るってな。猫背じゃ駄目だね、健康に悪い。 丸刈りの男の表情に首根っこを掴んでいた手を放した。背を向けて歩き出す。 「ぁ……、」 何も言わずともついてきた後方の気配にくくっと喉を震わせて、住み込みの奴隷ごっほんバイトを募集している知り合いのラーメン屋の元へ向かった。 戻る |