「みろゆきなり!きょうからおれもいちねんせいだ!」 バーン、とランドセルを背負ってドヤる兄さんにぱちぱち拍手を送る。風間くんにランドセルを買って貰ってからずっとテンションが高かったが、ついにランドセルを使用する日を迎えた今日は特にテンションが高い。昨夜も興奮で寝つけなかったくらいにはテンションが高かったが。つまりはテンションが高い。 「?ゆきなり、おまえもきがえないとだめだろ?」 「わかった?」 テンションが高いままの兄さんがちゃんと朝ご飯を食べたか確認し、トイレに行ったり歯を磨いたり朝のニュースを眺めたりと何時も通り過ごしていると、兄さんが不思議そうに言ってきたのでとりあえず外用の服に着替える。普段はこんな時間から着替えたりしないんだけども。 「あ、ぼたん!にいさんがなおしてやる!」 「んー」 「こうやって、こうやって……できた!」 首元についたボタンの掛け違いを意気揚々と直す兄さん。十回に一回ぐらいは手伝える機会をやらないと拗ねる。 「よし!がっこういこう!」 「いってらっしゃい」 「え?ゆきなりも!」 「えー?」 俺を外に連れて行っていいのか?気になるものがあれば直ぐ追い掛け回すぞ? 「一馬くん、そろそろ時間だから……まあ、もう準備が出来てるのね!」 「うん!がっこいく!」 「それならもう玄関で靴を履きましょうか」 「はーい、ゆきなりこっち!」 ずるずると兄さんに引きずられていく。先に兄さんが靴を履いて、そして何一つ疑っていない目で俺を見つめてくる。 「ゆきなりはやくー」 「……」 「がっこうおくれちゃう!」 兄さんをまじまじと見つめ返し、もしやと思いながらも……念の為言ってみた。 「……俺は学校行かないよ?」 「え?」 「行けないよ?」 「……エッ!!!??!」 もしやだった。そんな今世紀最大の謎を目の当たりにしたかのような顔をされても行けないものは行けない、諦めてくれ。 「??な、なら、ゆきなりは?おれなんでがっこう?」 「一馬くん、雪成くんはまだ三歳だから学校には行けないの。一馬くんは六歳になったから行くのよ?」 「ゆ、ゆきなりは…………」 「俺はここでお留守番」 「……ゆきなりろくさいだよ!いこ!!」 盛大な嘘を吐くな、此奴。 「ゆきなりもいくの!!」 「う〜〜ん、どうしても雪成くんと一緒が良い?」 「だっておかしいもん!きょーだいはいっしょでしょ?」 「兄弟だけど年齢的に学校はねぇ……」 「ゆきなりもじゃなきゃおれいかない!」 「それは困っちゃうわ」 あんまり先生を困らせるもんじゃないぞ兄さん。普段の自分を棚に上げて兄を咎めていたら、ふと閃いた。兄さんのランドセルをカパッと開けて中に入ったプリントを取り出し、中を読む。そこには"保護者同伴前提、お子様連れ可"の文字。 「入学式なら俺も良いよね?」 「ああ!確かに体育館までなら大丈夫ね」 「??」 「一馬くん、いい?今日は雪成くんと一緒に登校できるわ」 「ほんと!?ならいく!!」 「本当よ。でもね、それは今日だけで明日からは一人で行くのよ。わかった?」 「やだぁ……」 途端に意気消沈する兄さんを尻目に靴を履き、外出の準備を整える。それから兄の手を握る。きょとんとした顔の兄さんにニコニコと笑顔で、 「行こう、兄さん!」 「うん!!」 誘いをかければ即答だった。ちょろい。 次の日から毎朝兄と仁義なき学校登校戦争が繰り広げられることになるが、三年後まで待っててくれ兄さん。 戻る |