中高一貫学校の受験試験を乗り切って入学し、体育館で行われる新入生オリエンテーションで披露される部活一覧。
部活には興味がないが、帰宅部に入ると内申点が取れない。文化部ではコンクールに入賞でもしないと意味ないし、そういったセンスが自分には乏しいことは分かっている。面倒だが汗を流す運動部にでもするか、身体を動かすことは嫌いではない、と一先ず大まかな括りを決めて、始まったオリエンテーションを胡坐をかきながら眺めた。
バスケ、サッカー、野球……どれでもいいな。
どんどん進んでいくオリエンテーション。もうクジで決めようかな、あーでも野球だと坊主か?なんてぼんやり考えていたら防具を着込んだ運動部の番になる。

バシンバシンと打ち合う音が体育館に響いた。


 * * *


「うぅん悩むなぁ。なあなあ全部面白そうだけどお前は部活決めたか?」
「……あれ、もう終わったのか」
「おう、とっくに終わってるぞ?」

俺の後ろに座っていた男子が肩を叩いていたことで、はっと意識が戻った。運動部はおろか文化部の紹介まで終わり新入生はクラス順に体育館から退場していっている。

「な、部活はー?」

邪気なく訊いてくる此奴に、俺も素直に答えた。

「決まったな」
「早っ!もしかして前から決めてた?」
「いや、今なんとなく決めた」
「さっきので即決できるもんなのか……」
「こういうのにあんまり悩んでもな。合わなかったら辞めればいいし」
「あ、そっか退部できるもんな。……え〜でも道具買わなきゃいけないものがある部活に入ったら母ちゃんやめさせてくれねえだろうなぁ……」

うーんうーんと悩んでいる後ろの奴を横目に見ながら頭を掻く。
今まで一回も選択肢に上がらない、思い出しもしなかった運動部なのに、よくもまあチラッと見ただけで入ろうと決めたもんだと、我ながら自分に呆れて。

「そんで何に入るんだ?」

さっきまで母親で唸っていた癖に簡単に話題が切り替わるな。逆か?戻っただけか。
……俺が入ろうとしてる所もそこそこ金かかりそうだ。でも母さんは頷いてくれるし、辞めたいと急に言い出しても受け入れてくれるだろう。

「剣道部」


――――――
――――
――


[優勝は東都中学 松下選手!]

最後は胴に当たり、面で表情が周囲に見え辛いのを良いことに呆れた顔で一つ息を吐く。
弱い。手加減しても問題なく勝ち進められるぐらいには、相手が弱い。そこいらにいる奴らはそれも仕方ないかと思っていたが、大会の決勝戦相手も大したことが無かった。戦ってもつまらない、まだ同じ剣道部に所属してる彼奴とやってる方が面白味がある。強さとかそういう話じゃなくて。
このままずっとつまらないなら剣道部辞めるか……というわけにはいかない。内申点の為に部活に入ったんだ、優勝は嬉しい。ただ、このまま三年間続いていくのは肩が凝りそうだな。

「やったな松下!」
「おー」

新入生オリエンテーションの時からなんやかんやずっと一緒にいる同級生、西田が駆け寄ってきた。俺の平坦な調子に気付くと苦笑して肩を叩いてくる。

「……弱い者イジメだったか?」
「才能はあった。でもお前とやった方が楽しい」
「そっか」

ぼそぼそと小声で話す西田は気が利いて良い奴だ。こういう奴はすぐ結婚できるだろう。
この後は表彰式があるから俺だけ列から離れないといけないな。

「あっ」
「どした」
「もしかして、あれお前の母ちゃんと兄ちゃんじゃね?」
「は?」

一緒に暮していない兄がいることを同級生で唯一知っている西田が指差した先に目を凝らすと、そこには確かに母さんとその隣で目を輝かせ興奮している兄さんの姿があった。父さんは仕事だからいないが……でも兄さんも仕事のはずでは?ヤーさんに入ったんだよな?
風間さんが便宜を図ってくれたんだろうか。あ、てかそもそもヤーさんには定休日とかないのか、平日でも来れるんだな。

「こっからでもよく分かるくらい喜んでんな」
「そうだな」
「お、こっちにも喜んでる奴が」
「うっせ」

内申点以外嬉しくはなかったが、こうして兄が応援に来てくれるっていうんなら遣り甲斐が出てくるってもんだ。


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